家族信託を組んだ場合に税金は掛からないの?
2021.02.01
相続対策を考えて実行する際に壁となる事象の一つに認知症があります。認知症になると契約等をする行為能力が無くなってしまいますので、認知症発症後に対策を行うことが困難になってしまいます。これを防ぐための手段の一つに後見制度と信託契約という制度があります。詳しくは「家族信託で円満な遺産分割を考えてみましょう」に記載していますのでご覧ください。
今回は信託契約を利用した際、特に家族信託をクローズアップして税金が掛かるのかについて考えていきます。
信託契約に存在する3者
家族信託の課税関係を考える前に、最初に家族信託契約に存在する三つの立場の者を理解する必要があります。
三つの立場の者とは、委託者・受託者・受益者を言います。
委託者は、財産を所有している人で、この所有している財産の管理等を誰かに託す人です。
受託者は、委託者から財産の管理等を託される人です。
受益者は、受託者に管理等をされた財産からの果実を得る人です。例えば、収益不動産からの家賃収入を得るとかその家に住み続けるなどの果実を得ることです。
そして課税関係を考えるには3番目の受益者が誰になるのかが重要なポイントとなりますが、その前に委託された財産がどうなるのかを見てみましょう。
実は信託された財産の財産権は、信託された時点で受託者に移ることになります。財産の権利が移動するということは、この時点で課税が生じそうな気がしますが、これだけで課税関係が決定されるわけではありません。受益者が誰になっているのかを見なくてはいけないのです。
繰り返しますが受益者とは信託した財産から果実を得る人です。そして財産を信託する委託者が、そのまま受益者になっている場合は利益を得ることができる人は変わらないということになります。しかし信託は、財産を受託者へ委託した時点で財産権が受託者へ移ることになり登記も必要となります。財産権が移るということは、対価を支払っていれば譲渡所得税、無償で貰っていれば贈与税が課税されることになります。では委託者と受益者が同一でも課税が生じるのかどうかを見ていきましょう。
家族信託の課税関係
上記のケースをもう一度見てみましょう。
財産を所有している人が、財産を受託者へ委託していますが利益を得られる人は元々財産を所有していた委託者です。つまり、このケースではその財産で得をする人が変わっていないのです。これを自益信託といいます。そして自益信託では課税関係は生じないのです。なぜならば、財産権は受託者に移転していますが得をしている人は委託者=受益者で変わっていません。よって課税は生じないということになるのです。
しかし受益者が委託者以外の人となった場合には課税が生じてくることになります。無償で受益者となった場合には贈与税、受益者の死亡で受益権を得た場合には相続税といった具合に課税が生じてきます。ややこしく見えますが、誰が得をしているのかを考えますと簡単です。信託契約で得をする人は受益者と見られます。この得をする人が変わらなければ課税は生じませんし、得をする人が変わった場合には課税が生じるというわけです。
ということは、自益信託以外は課税が生じてしまいますので、家族信託契約を組成する場合には課税が生じないようにほぼ全て自益信託となってきます。
それでは自益信託の形態で契約組成すれば課税されることはないのでしょうか?
実は注意をしなければいけない点があるのです。それは「特定委託者課税」というものです。
特定委託者課税
「特定委託者」に該当すると受益者としてみなされることになります。ですので別名を「みなし受益者」といいます。(所得税法・法人税法では「みなし受益者」、相続税法では「特定委託者」といいます)
これに該当することになりますと受益者とみなされるため、上記の得をする人となりますので、委託者と「特定委託者」が別人であれば贈与税等の課税が生じることになります。
「特定委託者」に該当するかどうかのポイントを以下に記します。
・信託の変更する権限を有する者
・信託財産の給付を受けるとされる者
いかがでしょうか?
このポイントを見ますと、例えば受益者が連続して設定されている信託(受益者連続信託)の受託者が当てはまる可能性があるのではないでしょうか?受益者連続信託では受託者が第2受益者か第3受益者に設定されることが多いと思います。この場合に受託者は信託の変更の権限を有していて、信託財産の給付を受けるとされる者に当てはまる可能性があります。
課税の対象かどうかは形式ではなく実質により判断されるとしていますが、形式的に該当してしまっていると課税の不安は残ってしまうのではないでしょうか。
では課税不安を消す方法は無いのでしょうか?
実はあるのです!
「特定委託者」の該当ポイントの一つである信託の変更する権限の部分には但し書きがあります。「但し軽微な変更権限を除く」と書かれているのです。
ということは変更の権限を軽微な変更でしか行使できない契約内容にしておけばいいのではないでしょうか。例えば「委託者・受益者・受託者は本契約を信託の目的に反しないことが明らかである場合に限り変更することができる」といった別段の定めを設けておけばいいのではないでしょうか。
まとめ
日本という国は判例社会です。法律の文章は抽象的に書かれていることが多く曖昧であり、読む人によっていろいろな解釈が生まれてきます。そこで同じ法律を見ても、これはOK、いやダメだ、となってきます。これを同じ解釈に方向づけていくのが司法が下す判例です。
家族信託は日本において新しい制度です。新しいゆえに司法が下した判例は、まだ非常に数少ない状態なのです。ということは、これは大丈夫と思っていた事も、後で否定される事象も多く出てくる可能性も秘めています。
家族信託は認知症対策や遺産分割対策に非常に有効なツールとなりますが、一般の方が自力で作成していくことは大変困難です。条文をよく読みこんだ専門家とタイアップして利用する必要性が高い方法です。
エヌ・コンコード・コンサルティング株式会社は、そのお手伝いをする会社です。
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