遺産分割は2次相続も考えていきましょう
2021.10.17
相続。
人は多くのケースで、親の相続を2回経験します。父と母の相続です。
両親と別れるのはつらいことですが、父と母の相続はどちらが先に訪れるのでしょうか。
確率的には平均寿命の短い男である父が先に旅立つことが多いのですが、結局のところ相続の順番は誰にも分かりません。神のみぞ知るとったところでしょう。
ということは相続の対策を考える際に父が先に亡くなるということだけを前提に考えてはいけないということです。母の相続が先に起きるケースも想定に入れて対策を考えていかなければならないのです。
2次相続まで考える相続対策のポイント
さて題名にあります「2次相続」ですが、何のことでしょうか。お分かりの方も沢山いらっしゃることと思いますが、両親のどちらかが先に亡くなられた相続を1次相続。次に亡くなられた方の相続を2次相続と言います。
では2次相続まで考えて遺産分割を考えるということは、どういう事なのでしょうか?
考えるポイントは以下の3つです。
①争いの無い遺産分割
②相続税を少なくできるか
③相続税が課税される場合に納税できるか
ポイントの詳細
ポイント①争いの無い遺産分割
争いの無い遺産分割は一見それほど難しくないように思えるかもしれません。親から無償でもらう財産を喧嘩しないで分ければいいのですから。しかし事はそう簡単に運ばないことが多いようです。
先ず原因に遺産の財産構成が挙げられます。どういうことかと申しますと、遺産の中に不動産のようにの平等に分けることが難しい財産が含まれていることが多いのです。例えば遺産自宅だけで現金もほとんど無いと言った場合には複数の兄弟で分けることが困難なのは容易に想像できるでしょう。しかし今回のテーマは2次相続を考えた遺産分割ですので、ここでは不動産割合が大きい場合の分割方法については割愛します。詳しく知りたい方はこちらをご覧ください→ 「遺産が自宅しかない。どうやって分けるの?」
2次相続までを考えた遺産分割で肝要なのは、親2人が亡くなった後に平等に遺産を分けてもらったと遺族が感じられるかどうかです。例えば、父親が亡くなった後の遺産分割では分割割合が不平等に感じられるケースでも、「2次相続ではこうやって分けるから安心して」といった具合にトータルでは不平等ではないということを被相続人が伝えておいてあげることも有効です。
ポイント②相続税を少なくできるか
相続税を節税できるかどうかということですね。
節税のポイントは色々ありますが、ここでは最初に代表的な制度である「配偶者控除」と「小規模宅地等の特例」にスポットを当てていきます。
「配偶者控除」とは、遺された配偶者の生活を保護するための制度で配偶者の相続遺産額が法定相続分まで、もしくは1億6千万円までは相続税がかからない制度です。制度の詳細についてはこちらをご覧ください。→ 「国税庁 配偶者控除」
「小規模宅地の特例」とは、自宅であれば一定の条件の下に相続税評価額を最大で80%減らすことができる制度です。使えるのであれば使わない手はない制度です。制度の詳細についてはこちらをご覧ください。→ 「国税庁 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
さて、今回の本題であります2次相続までを考えた遺産分割が、この節税のポイントに大きく関わってきます。
どういうことなのかを例を見ながら考えていきましょう。
例)
被相続人:夫
相続人:妻、長男、次男の3人
遺産総額:1億2,000万円
以上の状況で2次相続までの遺産分割を2通り相続税計算してみます。
(小規模宅地等の特例等を考慮せずに進めていきますのご容赦ください)
この相続の法定相続人は3人ですので基礎控除額は、
3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円 です。
遺産総額1億2,000万円から基礎控除額4,800万円は引くと
7,200万円 が算出され、この金額に相続税が課税されます。
この7,200万円を相続人3人で法定相続分通りに分割したとして相続税は計算されます。
今回法定相続分通り分割しますと、妻1/2、長男・次男1/4ずつとなりますので金額にすると
妻:3,600万円
次男・長男:1,800万円 となります。
3,600万円の相続税は、3,600万円×20%ー200万円=520万円。
1,800万円の相続税は、1,800万円×15%ー50万円=220万円
それぞれの法定相続分に対する相続税を合計すると、960万円 となります。
この960万円が今回の相続で支払う相続税総額となります。そして実際に相続した遺産の割合に応じてそれぞれが相続税を支払うことになります。では分割した後のそれぞれの相続税額を2通りの分割割合で見ていきましょう。
「ケース1」
ケース1では妻が全部相続して、妻の死亡後に子供2人が半分ずつ相続することにします。
そうしますと、
妻が全部相続しますので960万円の相続税は妻がすべて支払うことになり、子供2人に課税は生じません。
しかし妻には「配偶者控除」がありますので、妻の相続税額もゼロになります。
つまり今ケースの1次相続で相続税は全くかからないことになるのです!
お得な感じがしますよね。
しかし、その後に妻の相続、2次相続を迎えることになります。
この2次相続の法定相続人は、長男・次男の2人です。
そしてここでは分かりやすいように1次相続の遺産がそのまま2次相続の遺産額1億2,000万円とさせていただきます。
としますと基礎控除額は、
3,000万円+600万円×2人=4,200万円 となります。
1次相続の時と比べますと法定相続人が一人減っている分、基礎控除額も少なくなります。
遺産総額1億2,000万円から基礎控除額4,200万円を引きますと、
7,800万円 という金額が課税遺産総額となります。
これを法定相続分で分けると1/2ずつで、3,900万円。一人当たりの相続税額は、
3,900万円×20%ー200万円=580万円 となります。
そして、580万円×2人=1,160万円と2次相続の相続税額が算出されます。
ケース1では、
1次相続の相続税額 0円
2次相続の相続税額 1,160万円 という結果が出ました。
次に別の分割はしたケースを見てみましょう。
「ケース2」
今回は1次相続で妻へ全てを相続させるのではなく、半分は子供2人へ相続させておく分割方法です。
そうしますと相続税総額960万円の負担割合は以下のようになります。
妻:960万円×1/2=480万円
長男・次男:960万円×1/4=240万円
妻は配偶者控除により相続税額は0円、長男と次男はそれぞれ240万円の相続税が発生します。
ケース1の1次相続は相続税が掛かりませんでしたが、ケース2では合計480万円の相続税が発生しました。
ケース2の分割方法では不利なのでしょうか?
では次に2次相続の相続税を計算してみましょう。
ここでもケース1と同様に1次相続の遺産がそのまま2次相続財産になったと仮定します。
そうしますと、ケース2は1次相続で半分は既に子供たちが相続していますので2次相続の遺産額は6,000万円となります。
基礎控除額は、3,000万円+600万円×2人=4,200万円ですので、
6,000万円ー4,200万円=1,800万円が課税遺産総額です。
1,800万円を法定相続分で分割すると長男・次男それぞれ900万円です。
900万円の相続税は10%の90万円となります。2人合わせて180万円の相続税額です。
ケース1では1次相続の相続税はゼロでしたが、2次相続での相続税額は1,160万円でした。
ケース2は1次相続の相続税額は480万円が生じたのですが、2次相続の相続税額は180万円。1次相続と2次相続の相続税額を合計しても660万円となり、ケース1と比べて支払う相続税は半分近くまで減っています。
この様に1次相続だけを考えて分割方法を考えるのではなく、2次相続まで見据えて相続対策を考える重要性がお分かりになることでしょう。
今回の考察は妻が元々持っていた財産や1次相続後の妻の生活費等を考慮していません。また相続の順番が夫→妻ではなく逆の順番になる可能性もあります。実際に考える際には専門家と一緒に考えていくことが最善と言えるでしょう。
ポイント③相続税が課税される場合に納税できるか
相続税が掛かる場合、相続税は現金で支払うのが原則です。
相続税は相続した財産価値以上の金額にはなりませんので、通常は支払えるはずです。しかし相続財産に不動産や自社株式等の換金性が低い財産の割合が大きい場合は注意が必要です。なぜならば換金性の低い遺産から相続税を支払うことが難しく、相続人が元々持っている現金で納税しなければなくなるからです。
早い時期から相続税が掛かるのかどうかを把握し、掛かるようであれば納税資金があるかどうかの精査も必要です。納税資金が不足しているようであれば、処分できる財産があるかや生命保険の活用を考える必要があります。もちろん納税資金のことも2次相続までを見据えて考えていく必要があります。
まとめ
今回、3つのポイントから2次相続までを考えた相続対策の必要性を考えてみました。
一番大事なことは、遺族たちが揉めない円満な分割方法を考えていくことです。いくら節税をしたからと言って遺族たちが、いがみ合い相続後に2度と顔を合わせない状態になってしまったら悲しいですよね。うちの子たちに限って揉めることは無いと思う親も沢山いらっしゃると思います。私も親の一人ですので自分の子供たちもそうあってほしいと願っています。しかし実際には、財産が絡んだっ場合に仲良かった関係がいとも簡単に崩壊してしまうケースが多々あるのが現実です。少しでも子供たちが揉める要素を取り除いてあげるのが親の務めの一つではないでしょうか。揉めない遺産分割方法を考えてあげてから相続税を少なくする方法や納税資金確保を考えていくことが最善と考えます。
また1次相続だけを見てみると相続税が全くかからなかったのに、2次相続で多額の相続税課税が生じる可能性が高いことがお分かりになったことと存じます。相続対策は先々までを見る想像力も必要と言えるでしょう。
納税資金対策もしかりです。節税になるからと言って、現金から不動産に換え納税資金が無くなってしまっては元も子もありません。
相続対策は、人間の感情を考えること、先を見ること、行動に対して生じる結果を想像することが重要です。
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