家族信託契約は遺留分に対抗できるの?
2023.01.16
相続法、遺留分は強行法規である。
ゆえに信託契約でも侵すことができないと耳にすることがあります。
平成30年には遺留分を侵害した内容の家族信託契約が無効とされ敗訴したと聞くことがあります。
この訴訟のことを、実際に当事者関係の方のお話しを聞く機会がありましたので、簡単にご報告します。
この件の大まかな流れは以下の通りです。
①地方裁判所判決→②原告・被告共に控訴→①高等裁判所で和解
といった具合に最終的に和解しています。
この案件は被相続人の希望により、一人の相続人にできるだけ遺産が渡らないように家族信託契約を作成し締結したものです。
具体的には自宅と収益物件の不動産を家族信託契約で子Aに6分の4、子Bと子Cに6分の1ずつ受益権を得る。残りの財産は死因贈与契約で子Aに3分の2、子Bへ3分の1、子Cへはゼロという内容でした。
それぞれの段階での内容をかいつまんで見ていきましょう。
①地方裁判所判決
「信託した不動産」
・収益物件は信託契約内容を認めてそのまま。(遺留分侵害も認められず)
・自宅は収益を生まないという理由で自宅部分だけ信託契約が無効とされ遺留分も認められる
「死因贈与契約したその他の財産」
・通常の相続財産と一緒で、死因贈与契約は有効。遺留分侵害額は子Cへ支払う
以上が大まかな地方裁判所判決です。
この判決の世間一般的な評判は、「遺留分を侵害した家族信託契約が公序良俗違反により無効とされ敗訴」といった感じでした。しかし詳しい内容を見てみますと、自宅部分だけが収益を生まないという理由で信託契約が無効ですが、他は認められていることになります。
さて、この判決には被告・原告双方納得がいかず控訴することになりました。
そして高等裁判所では結局和解を勧めてきたようです。
決着した和解内容は以下の通りです。
「信託した不動産」
・信託契約通りに子Cは6分の1の受益権を得て、子Aと子Bで受益権を買い取る
「死因贈与契約したその他の財産」
・その他の財産の6分の1相当額を遺留分給付として子Cへ支払う
以上の内容で、子ABは子Cと今後関わらく手済む。子Cは現金を得ることができる。ということで和解に至ったそうです。
しかも和解調書には信託契約、死因贈与契約ともに全部有効と明記されたそうです。
こうして見てきますと、全面敗訴的に伝わってきた案件が実は真逆で勝っていた内容だったのではないかと思われてきます。
そして、この結果から家族信託契約は相続対策にもっともっと利用できる可能性が広がっているのではないでしょうか?
まだ家族信託と遺留分に対しての判例が出ている状態ではありませんので、何をやってもいいですよという状態ではないですが、研究して利用していく価値は高いと思います。