民事信託の動向
2019.06.09
親が認知症になってしまった場合や、次の次の相続を考えた場合などに備える手段として民事信託がクローズアップされて久しくなっています。
親が認知症にになってしまった場合の手段として成年後見制度もありますが、この制度は不動産の処分行為は制限されるなど一部使いづらい制度となっています。
例えば、相続対策を考えると一部の不動産は売却したほうがいい。しかし不動産を所有している父親が痴呆症で不動産の売却契約を結べないといった状況だったとします。成年後見制度を利用した場合には不動産の処分が認められず売却できないケースが多く見受けられます。後見人は被後見人の財産を守る使命が課せられるが故であり処分が認められなくなってしまうのです。
この問題も民事信託を使うことによってクリアできると言われています。
信託契約は、
〇委託者
〇受託者
〇受益者
の3者が存在しています。
委託者が自分の財産を受託者に管理運営を託すことになります。受託者を事業者ではなく身近な人などがなるものを民事信託、しかも家族がなった場合に家族信託といいます。そして受託者が管理運営したことによって生まれた果実は受益者が得ることになります。
認知症対策のために以下の契約形態で信託契約を結んだとしましょう。
〇委託者=父親
〇受託者=長男
〇受益者=父親
信託財産(委託する財産)を収益を生むアパートとしましょう。
上記契約で考えますと父親が所有しているアパートを長男に管理等をしてもらい、そこから生まれる果実、つまり家賃収入を受益者の父親が得ていくことになります。この信託契約を結んでいますと父親が痴呆症になったとしても不動産の処分とうが可能になってきます。(契約書をしっかりと作り上げていく必要はあります)
受益者の父親が亡くなった後は母親が受益者となり、母親の死亡後は子供2人といったように連続して受益者を指定しておくことも可能です。
さらに一時は民事信託を使って節税になったり、相続の遺留分を消せるなんて話も飛び交っていました。
この点では判例も出てき始めたようです。(信託は日本では比較的新しい制度で、判例等が極端に少なく何が良くて何がダメなのか判断が難しいことが多々あります)
信託契約を使っても日本の制度では全く節税の機能は働きません。
信託制度を使っても遺留分を侵害するという判例もしっかりと出始めました。
また連続して受益者を決めておくことはできますが、一定の相続人を排除するような意図があったり、遺留分侵害をする意図が見られる信託契約は無効にするといった判例も出てきています。
現在、日本において信託契約のエキスパートは非常に少ない状況となっています。
法務や税務もしっかりとケアして契約書を作り上げていく必要があります。
安易に信託契約書を作ってしまうと後々に禍根を残したり、訴訟リスクを抱えてしまいます。
信託契約作成の際には信託契約に詳しい弁護士や税理士の方々の意見も伺うなどのこともしたほうがいいかもしれません。