改正相続法の留意点
2019.10.22
今年の7月に改正相続法の大部分が運用開始されています。
この民法改正により税務にも影響がありますので、ここでポイントを挙げていきます。
主に影響のあるポイントは以下の通りです。
①遺留分の遺留分減殺請求に関して
②配偶者居住権について
①から見ていきましょう。
遺留分とは、法定相続人が自分の相続財産取り分だと主張すると絶対に貰える権利部分です。
遺留分は、配偶者・子であれば法定相続分の1/2です。
例えば、
相続財産が全部で1億円。
法定相続人が配偶者と子2人(合計3人)だったとしますと、配偶者の法定相続分は5,000万円。子がそれぞれ2,500万円です。その1/2が遺留分となりますので、配偶者の遺留分は2,500万円、子の遺留分はそれぞれ1,250万円ということになります。
ここで子の一人が遺言により250万円しか相続できなかった場合、遺留分は1,250万円のため、あと1,000万円を他の法定相続人へ請求することができます。これを遺留分減殺請求といいます。もちろん請求しないで相続を完了させることも可能です。
遺留分減殺請求が起こった場合に他の法定相続人は弁済をする必要が生じます。
以前は弁済手段として不動産の持分なども認められていましたが、今年7月の改正以降は現金の弁済しか認められなくなりました。(筆者は、もともと不動産持分を共有することはあまりお勧めしませんが)
ここで他の相続人が遺留分を支払うための現金が無かったとしたらどうなるのでしょうか?
以前は不動産の持分で支払えましたので、持分を共有にしたからといって特別な税金がかかることはありませんでした。(遺留分をもらった法定相続人はその分も相続財産として相続税課税対象となります)
さて、7月の改正後に上記と同じ状況で、同じく持分共有にする方法を選択したとしましたらどうなるでしょうか?
遺留分を支払うために不動産持分を提供した側が、不動産譲渡税を支払う必要が出てくるケースもあるそうです。これは代物弁済という考え方で、不動産を共有するということが実際に売っていなくても税制上は売ったとみなされるのだそうです。遺留分として提供した持分の価値の約20%(所有期間が5年超)が不動産譲渡税となってしまうかもしれませんので留意していきたい点です。
次に②を見ていきます。
配偶者居住権についてですが、こちらは2020年4月からのスタートです。
亡くなった夫が所有していた自宅(土地・建物)を妻が引き継ぐ場合、現状は所有権を引き継いでいくことしかありませんでした。
2020年4月改正以降は、今まで通りに所有権だけを引き継いでいくこともできますが、所有権と配偶者居住権に分けて相続することも可能となります。
これは子が自宅の所有権を相続し、妻は配偶者居住権を相続するということになります。これにより妻は自宅の所有権を相続しなくても居住権により自宅に住み続けられることになります。
配偶者居住権は、妻の余命や家の耐用年数などを組み入れた複雑な計算式により価値を算出していきます。
自宅価値が3,000万円で計算した配偶者居住権がざっくり1,000万円だったとします。
普通に所有権だけを子が相続したら3,000万円を相続することになりますが、所有権と配偶者居住権に分けて相続した場合は子2,000万円、妻1,000万円の相続財産となります。
では妻が相続した配偶者居住権は、妻が死亡した際にどうなるのでしょうか?
実は、消滅するんです!
この際に子が相続した自宅は価値が上がります。
配偶者居住権が付いている場合は、その自宅は自由にならず処分したくても処分できない負担付所有権となっています。配偶者居住権が消滅することによって負担付所有権が所有権に変わるため不動産価値は増加することになります。
では増加した価値に対して課税されるのでしょうか?
課税されないそうです!
上記の最初の相続で子が普通に所有権を相続した場合は3,000万円で相続したことになりますが、配偶者居住権と分けた場合には2,000万円で相続できてしまうことになります。この制度は使い方によっては有効な節税対策と成り得るということになります。
注意したいのは、配偶者居住権を妻が放棄したり解除したりすると、子に贈与税がかかってしまうことです。
なお。税務の取扱については令和元年9月現在の税制・関係法令等に基づき記載しており、今後税務の取扱等が変わる場合があります。また、個別の税務取扱については税理士や所轄の国税局・税務署等にご確認ください。