民法改正~遺言と不動産登記~
2020.04.21
民法改正により、遺言と不動産登記の関係で変更されている部分があります。
それは「民法899条の2、共同相続における権利の承継の対抗要件(相続の効力等に関する見直し)」による変更となります。
一般的に不動産などは登記を備えないと第3者に対抗することができません。
第3者とは、不動産を「売った人」でも「買った人」でもない人です。
不動産を買う人はお金を支払い、売る人は不動産を譲り渡します。
これで売買は成立ですが、買った人は登記をしないと自分の所有物になったことを第3者に主張できないのです。
例えば、不動産を売る人A、不動産を買う人B、この売買に関係のないCという3人がいたとします。
そしてAから不動産を買ったBは登記をしなかったとします。
その後にAは上記売買に全く関係のなかったCと上記不動産の売買契約をして、Cが登記をしました。
そうすると最初に不動産を買ったAは、最初に登記をしたCに対抗できない。つまり上記不動産はCの所有になるということです。
理不尽に思えるかもしれませんが法律はこうなっているのです。まちろんBはAへ損害賠償請求等をする事にはなると思いますが。
以上が通常の不動産売買と登記の関係です。
では、遺言によって不動産を取得した場合にはどうでしょうか?
今までは〇〇に不動産を「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言等)により承継された財産は登記無しでも第3者に対抗することができていました。
例えば、
法定相続人が長男Aと次男Bの2人のケースがあったとします。そして次男Bには多額の借入金があり、その債権者Cがいます。
遺言にはこう書かれていました。
「不動産は現在同居している長男Aに相続させる」
その後、長男Aは相続移転登記をしませんでした。だから登記事項を調べても長男Aの所有とは誰も分かりません。
そこで債権者Cは、次男Bが不動産の1/2を共有で相続したとして共有部分を差し押さえにかかりました。
しかし遺言で相続させると書かれているために、長男Aは債権者Cに対抗できていたのです。
債権者Cは諦めるしかなかったのです。
遺言は第3者が見ることは出来ず、当然第3者Cは遺言の内容を知るよしもありません。よって次男Bが法定相続分を相続したものとして返済を求めるのも当然でしょう。
これは、遺言が万能なものであるという解釈から判例がでています。
今回の民法改正では、上記見解釈を第3者の期待権を一方的に害するものとして、180度方向転換しました。
以下がその条文です。
「改正民法899条の2 第1項
相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。」
つまり相続させる旨の遺言があったとしても、登記が無い場合には法定相続部分を超える部分については第3者に対抗できないとなったわけです。
上記例で見てみますと登記をしていない長男Aは、不動産の1/2については債権者Cに勝てないということになります。
登記をしていないことにより不動産の半分を失うことになります。
ですので今後は登記という行為が大変重要になってくるということです。
今回の民法改正では配偶者居住権の創設や自筆証書遺言の一部改正などの目玉があり、登記のことは陰に隠れがちですがケースによっては非常に大事なポイントとなることもあり得ます。