相続放棄しても損しないの?
2020.05.01
遺産を相続するということは、全ての遺産を引き継ぐことになるのでしょうか?
遺産の中には、自分にとってプラスになる遺産も、借金のようなマイナスになる遺産もあります。
相続してもマイナスの財産が大きいのでは、たまりませんよね。
何かいい方法はないのでしょうか?
相続の方法を探ってみましょう。
財産の全部を相続するしかないの?
相続とは、亡くなった人の権利や義務を、一定の身分関係にある人が引き継ぐことです。
権利と合わせて義務もくっついてくるのですから、借金だらけの財産を引き継いでしまうこともある訳です。
では、常に全ての遺産を相続しなければならないのでしょうか?
以下、相続の方法を見てみましょう。
3つある相続の方法
①単純承認
プラスの遺産もマイナスの遺産も全てひっくるめて引き継ぐ方法で、最もスタンダードな方法です。
②限定承認
プラス財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ方法
③相続放棄
一切の遺産を相続しない方法
では、3つある相続の方法はいつまでに決めればいいのでしょうか?
実は、「相続があったことを知った日から3カ月」なのです。
3カ月も期間があるんだ、と思う方もいるかもしれませんが、果たして余裕のある期間と言えるでしょうか。
この3か月は通常の3カ月ではありません。身近な人が亡くなった後の3カ月です。
通夜・告別式の手配や、各種届出、物の整理等、色々と慣れないことを沢山処理していかなければなりません。
しかも仕事や生活がお休みになる訳ではないので、かなり忙しい期間となることでしょう。
色々なことに追われているうちに3か月は、あっという間に過ぎるかもしれません。
では、「相続があったことを知った日から3カ月」を過ぎた場合にはどうなるのでしょうか?
この場合、自動的にに①の単純承認をしたこととみなされます。3カ月の期間が一定の理由で判断できない場合は家庭裁判所に申請することにより延長することはできますが、延長申請する場合にも「相続があったことを知った日から3カ月」以内に手続きをする必要があります。
「相続があったことを知った日から3カ月」が過ぎてしまうと、②の限定承認や③の相続放棄ができなくなりますので、借金だらけであったとしても相続してしまうことになり要注意です。
以上の単純承認は、あえて手続きをする必要はありません。
この他に、相続人の意思とは関係なく単純承認したとみなす制度があります。これを「法定単純承認」といい、相続人が以下の行為を行った場合には「法定単純承認」が成立し、以降は限定承認や相続放棄が出来なくなります。
「法定単純承認」が成立する行為は以下の通りです。
(1)相続財産の全部又は一部を処分にしたとき
相続人が相続財産の処分を行ったときには、相続財産を得る意思があると判断されて単純承認をしたことになります。
ただし、保存行為(財産の現状を維持する行為)や短期賃貸借(602条に規定の賃貸借)を行う場合には、これに該当しません。
(2)相続があったことを知った日から3カ月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったとき
先述の通りです。お気を付けください。
(3)限定承認・相続放棄後であっても、相続財産の全部又は一部を隠匿、私的に消費、悪意で相続財産目録に記載しなかったとき
このような背信行為をした場合には、限定承認や相続放棄が認められないこととなります。
では、「法定単純承認」が適用される可能性があるケースは、どのようなものがあるでしょうか?
・被相続人名義の不動産の売却
・被相続人名義の不動産の回収
・被相続人名義の不動産を相続人へ名義変更
・被相続人の所有不動産の賃料請求等
・被相続人の債務の弁済
等があります。
そして、「法定単純承認」で特に見落としがちな事案を次にご紹介します。
被相続人が加入していた医療保険の入院給付金や手術給付金です。
被相続人が、治療のために医療機関へ入院している最中に亡くなることもあります。
または、意識が無い状態が続いていて亡くなることもあります。
このような場合、入院給付金や手術給付金の請求を相続人が代理請求をして給付金を受け取ることになります。
これは実によくあることです。
しかし、限定承認や相続放棄をしようとしている相続人が、上記の代理請求して給付金を受け取る行為をした場合は「法定単純承認」となってしまうのです。
つまり、限定承認や相続放棄を出来なくなってしまうのです。
これは、入院や手術の給付金が被相続人が存命中に受け取るという性格の金銭で、生前から所有していた遺産という扱いになり「相続財産」なのです。
その「相続財産」に手を付けたということは、「単純承認」したということになるのです。
相続放棄はした方がいいの?
相続放棄をするかどうかを決めるには、なんといってもプラスの遺産とマイナス遺産バランスだと遺産の種類だと思います。
借金まみれだった場合は、迷わず相続放棄になると思いますが、不動産を含めるとプラスの財産価値がマイナスの財産を上回るが借入額も多い時は迷いますよね。
このようなケースで、不動産が被相続人の居住用であった場合、相続人が住むことのない居住用不動産であったら「相続放棄」も視野に入るでしょう。
住むことのない居住用不動産が売却しやすい立地で、売却代金が借入額を上回るようならば相続してもいいですが、そうでなければ考え者です。不動産を売却しても借り入れを返済できないのも困ります。売却できずに空き家と借金を相続することも好ましくありません。空き家の管理も大変な上、借金返済もある。ちょっとゾッとしませんか。
相続する不動産が、アパートなどの収益物件であった場合は今後の収益を計算して判断しましょう。
収益物件は安定的に家賃収入があり儲かりそうな感じがしますが、全てがそうではありません。
家賃収入は確かに安定的ですが、築年数が古くなってきますと賃料が下落していく可能性があります。人口減の時代で空き室リスクもあります。その他に修繕費や改修費もかかってきます。
借入返済も考慮した収益シュミレーションをして、やっていけると判断できるようであれば相続してもいいですね。そうでなければ限定承認や相続放棄も選択肢として考える必要があるでしょう。
そして、こうしたことを冷静に考えるには相続が起きた後では時間的にも労力的にも難しいかもしれません。
なぜならば、限定承認や相続放棄をできるのは「相続があったことを知った日から3カ月」なのですから。
是非早いうちから考えておいていただきたいところです。
相続放棄をしたら何ももらえないの?
もちろん、相続放棄をしたら被相続人の遺産は全てもらえません。
しかし、手にすることができる財産が一つあります。
それは、生命保険金です!
生命保険金は、民法上「相続財産」ではありません。
保険金受取人固有の財産なのです。
つまり、生命保険金受取人が元々所有している財産ということになりますので、相続人が相続放棄をしても生命保険金は受け取れるのです。
事前に借入金が多いので相続放棄をすることを決めていた場合、こうした手段で財産を残してもらう方法もあるのです。
ただし、民法上は相続財産ではないのですが、税法上は「みなし相続財産」として相続税課税の対象になりますのでご注意ください。
まとめ
相続が発生した後は、常に時間に追われるような状態になります。
今回ご紹介しましたように、限定承認や相続放棄をできるのは「相続があったことを知った日から3カ月」以内です。
また、遺産分割をして申告して相続税を納税するまでの期間は「被相続人の死亡を知った日の翌日から10カ月」以内です。
相続人達が借金のことを知らないことも多いです。
相続が起きてから財産状況を把握して相続放棄等の判断を下していくことは困難になるかもしれません。
被相続人がお元気なうちに、相続の対策をしていくことが非常に重要です。
しっかりと財産継承の生前対策を行い、いつまでもご一族が仲良く繁栄していかれることを切に願います。