相続対策に借入は有効な手段?
2020.05.04
相続対策をお考えになってますか?とお聞きした際に、
今はまだしてないけど「借金しようと思ってる。相続財産が減るんだよね。」といったお返事をいただくことが時々あります。
これは正しいのでしょうか。
ある意味正しいです。
相続税を計算する際に、遺産総額から故人の残した借入金等の債務を差し引くことができるのです。
どのような債務が控除できるのでしょうか。
相続財産から控除できる債務
控除できる債務は相続開始日において確実であるものに限られます。
債務の種類には、銀行借入金、借入金、未払金、公租公課、買掛金等があります。
また、保証債務(何らかの契約で保証人になっているもの)や連帯債務(一の債務に対して複数人が債務となっているもの)は以下の取扱となります。
保証債務は、主たる債務者が弁済不能であるために債務を履行し、かつ主たる債務者からその金額を回収できる見込みがないとき。連帯債務については、負担すべき金額が明らかになっている部分について相続財産から控除できます。
借入金の控除をする場合は、借入金の残高証明書・金銭消費貸借契約書・請求書 が確認書類として必要になります。
ということで、借入金は遺産総額から差し引くことができますので、相続対策になる、可能性もあります。
では、借入が相続対策になるのか、もう少し考えてみましょう。
例えば、Aさんが銀行から単純に5,000万円借りたとします。そうしますと、Aさんは銀行から5,000万円という現金を手に入れることになります。
実はこの状態ですと5,000万円という債務が発生しますが、5,000万円の現金という資産も発生します。
ということは、5,000万円を債務控除することはできますが、資産5,000万円がプラスされますので、借入したけど遺産総額は変わらない状態なのです。
不動産購入の効果
では、せっかく借り入れた5,000万円という資金を活用してみましょう。
5,000万円で土地・建物の不動産を購入したらどうなるでしょうか?
・土地の評価額が20%~30%ほど下がります
土地を相続した場合は、実際に売買された時価と違う基準の価額で評価されます。相続税の計算では、国税庁が定めている「路線価」を基準に評価され、この「路線価」は時価の70%~80%程度といわれています。
・建物の評価額が半分ほどに下がります
建物の評価は一般的に固定資産税評価額され、年々減価償却もされていきます。よって、実際に支出した建築費よりかなり低い金額で評価される傾向にあります。
・不動産を第三者へ賃貸することによる評価額が下がります
上記の土地と建物の評価基準に加えて、アパートやマンションなどの不動産を第三者へ賃貸する場合は、評価額がさらに30%ほど下がります。この評価減できる減額割合のことを借地権割合といいます。この借地権割合は土地ごとに定められており、国税庁の路線価図で確認することができます。
・小規模宅地の特例を使えます
一定の条件に当てはまる一定の面積の土地は、相続税軽減の措置が図られています。
小規模宅地の特例を受けることができる土地の種類、面積、減額率は以下の通りです。
特定居住用宅地 | 330平方メートルまで | 減額率80% |
---|---|---|
特定事業用宅地 | 400平方メートルまで | 減額率80% |
特定同族会社事業用宅地 | 400平方メートルまで | 減額率80% |
不動産貸付用宅地 | 200平方メートルまで | 減額率50% |
上記不動産の評価減をみてきましたように、かなり遺産総額を下げる効果があることがお分かりになることと思います。
借入れて調達した5,000万円を現金のまま置いておくと相続税評価額は5,000万円のままですが、不動産に変えることにより、2千万円台に下がります。借入金の債務控除を使うことによって、相続税対策としての効果は大きいです。
では、この方法を相続税がかかる人は全員選択したほうがいいのでしょうか?
よく考えてみましょう。借入金は返済しなければいけないのです。
不動産投資のリスク
不動産投資は、確かに相続税評価額が下がり、この点では効果絶大です。
手持ちの資金が潤沢にあり、借入をせずに不動産投資をできれば最高の相続税対策になるでしょう。現金で持っているよりも相続税評価額を下げることができ、借入返済をする必要が無いので、家賃収入がダイレクトに利益を生みます。
しかし、借入をして不動産投資をする場合は、借入金返済をしていかなければならないのです。
家賃収入が入るので借入返済は楽にできますよ、という声がどこからか聞こえてきそうですが、その声を鵜呑みにしてもいいのでしょうか?
不動産投資に付いてくるリスクを考えていきましょう。
・空室リスク
借入して賃貸不動産を購入する際に出てくる収支シュミレーションは、空室を考慮していないものが散見されます。しかし、実際に賃貸経営を行っていくと、常に満室の状態であることの難しさを感じるかもしれません。空室が多くなると、その分収入が入ってこないので返済が滞る可能性があります。
・家賃下落リスク
年数が経過しますと建物が劣化したりデザインが古く感じられるようになったりと、周囲の物件との競争力が落ちる可能性があります。当初の家賃では入居者が入らないと、家賃を下げざるを得ない場合があります。こうなると収入が減りますので、借入返済計画に影響を及ぼしていきます。
・家賃滞納リスク
家賃の滞納者がいると、その分の収入が入らないので、これもまた借入返済への影響が出ます。
管理会社が家賃保証をしてくれる契約もありますが、契約内容とコストを吟味する必要があります。
・金利変動リスク
不動産投資の返済期間は長くなることが多いです。借入金の利息が変動金利であった場合は、金利上昇の可能性があります。金利上昇しますと返済額が増えますので収支バランスが悪化する可能性があります。(固定金利の場合は金利上昇しません)
・ランニングコスト
長年経営する間に、諸々の修理費や修繕費がかかっていくことを頭に入れておきましょう。
・流動化リスク
不動産は必要とするときに現金化するスピードが遅いです。また急いで処分をすると安く買いたたかれることもあります。
以上、不動産投資のリスクを見てみますと、賃貸経営をするのも生半可なことでないことがお分かりになると思います。
ただ、不動産投資をしてはいけない、ということを申し上げているのではありません。
もちろん、しっかりと収益の出せる物件に出会ったときに資金を調達できるのであれば、不動産投資をするべきと思っています。
判断をする際に、見せかけの数字を鵜呑みにして決断を下してはいけないということなのです。
今は金利も低いので借り時ですよ、という言葉もよく耳にします。
確かに低くて魅力的です。
しかし、今はひと昔と比べて建築コストがものすごく高くなっています。
金利が低くても、借り入れなくてはいけない金額が大きくなっています。しかも低い金利も将来上がるリスクがあります。(変動金利の場合)
ただ最近は、建築コストが少し下がってきたということも耳にします。今回の新型コロナショックによってコストはもっと下がるかもしれません。(収束後の人の動きによっては上がるかもしれませんのでご注意を)
お題の「相続対策に借入は有効な手段?」に対する回答は、
「イエス」です。
だだ、冒頭部で述べましたように借りるだけでは効果がないことをご承知ください。
安易に借入をして投資をするのではなく、投資内容をしっかりと吟味しましょう。
そして借入をして投資をすると決めた場合は、肝を据えて賃貸経営しましょう。