揉めない相続にするための遺言作成~遺産相続対策を考える~
2020.05.05
相続対策をするために、「遺言を作成することは有効である」という意見もありますし、「遺言を作成することにより、揉める原因になってしまう」という意見もあります。
私は、どちらの可能性もあると思います。
しかし、遺言作成をする人が、相続人のことをしっかりと考え、揉めない方法で遺言作成をすれば、揉めることはないとも思います。
ここでは揉めない遺言作成をご一緒に考えていきましょう。
揉めるということは、相続人達の感情の問題です。
その感情を荒立てる原因は何でしょうか。
一番は不公平感だと思います。
例えば、大げさな例ですが、相続人が2人いるけど片方の一人に全てを相続させる内容の遺言があったらどうでしょうか。通常、全くもらえない方は不満を持つと思います。
次に、相続人は兄弟3人いて遺産は現金のみ。この現金を3人で3等分に分けなさい、という内容の遺言があったとします。平等で揉めなさそうですよね。しかし、兄弟3人のうち2人は大学の医学部を卒業して医師として活躍している。1人は高卒で会社員として勤務しているとしましょう。高卒の兄弟が「兄貴たちは医学部まで出してもたって学費をたくさん出してもらってるよね。今ある現金を3等分じゃ不公平なんじゃないかな」という感情が出てくるかもしれません。
不公平感以外では、生活苦等で何としてでも多くの遺産を手にしたいと考える相続人がいるような場合です。
第3者から見て、ものすごく公平だなと思われるような遺言内容でも、難癖をつけてくる可能性があります。自分が納得する金額になるまで気が済みませんので。
面白いもので、相続人全員が高収入で生活資金が潤沢である場合には、不公平感のある遺言でも揉めない傾向があります。揉めて無駄な時間を費やすよりも、仕事に集中して稼ぐほうが得策と考えるようです。また相続人の中に、裕福な処遇の人と、生活が苦しい人が混在している場合は、後者に遺産分配が偏った遺言内容でも裕福な人は揉めない傾向があります。後から裕福な人の意見を聞いてみますと、不満が無くはないですがしょうがない。揉めるのが面倒くさい、と思われることが多いようです。
さて、遺言と一口に申し上げてきましたが遺言にも、いくつかの種類があります。
ここからは、どんな遺言があるのかを見ていきましょう。
余談ですが、「遺言」と書いて「ユイゴン」と読むことが多いですが、法律的な正式名称は「イゴン」と読みます。普段言葉に出すときは、どちらでも通じますので雑学としてお使いください。
「遺言の種類」
遺言には大きく分けて「普通方式」と「特別方式」があります。
「普通方式」
・自筆証書遺言
・公正証書遺言
・秘密証書遺言
「特別方式」
・緊急時遺言
・隔絶時遺言
と分類されます。「特別方式」の遺言は、事故や人身災害等の身に危険が迫ったような状況で利用できる形式で、「普通方式」の遺言はそれ以外の通常時に使われる形式です。
ですので。生前の相続対策に使うのは、ほぼ「普通方式」ということになりますので、「普通方式」の遺言3種類について説明していきます。
①自筆証書遺言
自分で作成して、自分で保管をする遺言です。「故人の部屋の金庫から遺言書が見つかった」などのお話しは、この自筆証書遺言にあたります。特別な手続きが必要ありませんので、費用も掛かりませんし楽な方法と言えます。自筆証書遺言は従来、遺言者本人が、遺言の全文・日付・氏名を自署し、押印して効力が発生しました。民法改正により平成31年1月13日以降の自筆証書遺言は、遺言の中の財産目録をワープロ等で作成することが可能になりました。また自筆証書遺言を公証役場に保管することが、費用は掛かりますが可能となりました。
メリット
・いつでも好きな時間と場所を選んで気軽に作成できます。
・以前は自分で保管をるる必要があったため、遺言が見つからない・誰かに見つかって事前に読まれてしまうという可能性がありました。民法改正により公証役場で保管が可能となりましたので安全に保管でき、公証役場で遺言の有無を確認できるようにもなりました。
・コストがかかりません。(公証役場に保管する場合は有料)
デメリット
・自筆証書遺言は、専門家の目を通さずに自分で書くために、様式不備で無効とされる可能性があります。例えば、2人以上の同一書面で遺言することができません。一つの遺言に夫婦で書いてしまったりすると無効です。また日付をしっかり記載しなければいけません。「〇〇年〇〇月吉日」などは無効です。
・公証役場に預けなかった場合は、盗難や紛失、または未発見の恐れがあります。
・遺言者の筆跡が遺言者のものかどうかの争いが生じることもあります。
・遺言者が自分で保管していた場合は、遺言を発見した相続人が、家庭裁判所に遺言書を提出して検認を受けなければなりません。検認手続きを怠ると、5万円以下の過料制裁があります。
②公正証書遺言
公正証書遺言とは、2人以上の証人が立会いの下に、公証人が遺言者から遺言内容を聞き取りながら作成する遺言です。作成した遺言書は公証役場で保管されます。
メリット
・公証人が入って遺言を作成するため、様式不備で無効になる恐れがありません。
・公証役場で保管するために盗難や紛失または未発見の恐れがありません。(民法改正により自筆証書遺言も公証役場で保管ができるようになっています)
・家庭裁判所での検認手続きは不要です。
・公証人が書面化してくれますので、自分で記入していく必要がありません。
デメリット
・手続きに手間はかかります
・証人が2人必要となります
・費用がかかります
③秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言者又は第3者の書いた遺言を封筒に入れて封入し、遺言に押印した印鑑と同じ印鑑で封印します。そして証人2人の立会いのもとに公証人に遺言として提出し、公証人が所定の事項を封筒に記載した上で、遺言者・公証人・証人が署名押印しなければいけません。遺言を誰にも見られたくない、公証人や証人の前で読み上げられたくないという人で、自筆証書遺言では不安だという方の選択肢となります。
メリット
・自筆証書遺言と違い、署名と押印だけ自分で行えば、PCでの作成や第3者の代筆が認められています。
・遺言内容を誰にも知られずに、遺言の存在だけを認識させることができます。
デメリット
・手続き後は自分で保管するため、紛失や盗難のリスクがあります。
・秘密証書遺言には、11,000円の手数料が必要で、公正証書遺言よりも割高になる可能性があります。
・遺言内容を専門家がチェックしている訳ではないので、自筆証書遺言と同様に不備による無効の可能性もあります。
・証人2人が必要です。
・検認手続きが必要です。
以上、「普通方式」による遺言の種類を見てきましたが、どれを選択すればいいのでしょうか?
③の秘密証書遺言は、手間やコストがかかる割には、無効になる恐れがあったり、紛失リスクがあったり、検認が必要だったりしますので、よっぽどの理由がない限り選択肢にはならないでしょう。
一番ベストな方法は、②の公正証書遺言だと思います。一定の手間とコストはかかりますが失敗のリスクが一番少ない方法です。
しか、民法改正以降は①の自筆証書遺言を利用する価値も高まったと思います。
なぜならば、自筆証書遺言も公証役場に保管できるようになったからです。紛失、盗難リスクが無くなり、検認も必要なくなります。
財産目録以外は遺言者が書き込んでいく必要がありますが、自分で書けばその分のコストはかかりません。ただし、内容に不備があると無効になってしまいますので、内容は専門家のチェックをしてもらった方がいいかもしれません。
さて、揉めない相続にするための遺言作成ですが、何をすればいいでしょうか?
遺言を作成する場合に、法定相続人が誰であるかをしっかりと確認してください。
次に、自分の財産は何がどのくらいあるのかを確認してください。つまり財産の棚卸です。
上記2点をしっかりと確認しないと分け方を決めることはできないはずです。
この2点を確認したら、法定相続人達に何をしてあげられたかを考えてみましょう。
次に、法定相続人達が自分に何をやってくれたかも考えてみましょう。
思いは、まとまったでしょうか?
では棚卸した財産が総額でいくらになるかを計算してみましょう。総額を計算すると、法定相続人それぞれの「遺留分」がいくらかを計算することができます。
「遺留分」とは、一定の範囲の法定相続人に認められる、最低限の遺産の取り分です。
「遺留分」は遺言によっても侵すことのできない権利ですので、この「遺留分」を無視した内容の遺言は揉める材料となってしまう可能性が高くなりますので、「遺留分」を考慮した遺産分割方法を考えるのは必須です。
遺産が現金だけであれば、遺産分割の割合を考えるのは容易です。子供にジュースを均等に分けてあげるように、平等に分けてあげればいいのですから。
しかし、遺産の中に不動産が含まれていることが、かなり高い割合であります。
そうしますと、ジュースを均等に分けるように分配することが困難になってきます。
相続人が複数いて、遺産の内訳が、不動産で1億円、現金が2,000万円などということも少なくありません。
不動産を相続人全員で共有名義にすればいいじゃないかというご意見も散見します。しかし、ここでは詳しく述べませんが、不動産を共有することはお勧めできません。後に禍根を残すだけですので。
不動産を売却して現金化してから相続人で分ける方法もあります。この方法にも遺言は必要でしょう。
では、不動産は残したいという場合はどうでしょうか?共有にせずに、不動産も残して分割するのです。ちょっと均等分割は難しそうですね。
実は、こういうケースでは、生命保険と遺言を使って揉めないようにできる方法があるのです。こういった方法は相続が発生してからですと遅く、手を打つことができません。
事前に手を打つことで実現できる対策です。専門家とタッグを組んで、早めに手を打っていきましょう。
遺言の後部には付帯事項を記載できます。ここには、それぞれの相続人達への想い、なぜこのような分割にしたのかなどを記載していくことを強くお勧めします。
ちょっとした努力を要しますが、揉めることのない遺言作成によって、子供たちが永遠に仲良くしていく材料を作ってあげることができるのです。
エヌ・コンコード・コンサルティング株式会社はその材料づくりのお手伝いをします。