相続対策で加入する生命保険~課税種類を選ぶ~
2020.05.14
今回の写真は襟裳岬の夜明けです。
日本全国の新型コロナ新規感染者が大分減ってきました。
夜の闇の後は必ず夜明けがくるように、日本の社会にも夜明けが早くやってくることを願います。
相続対策に生命保険を使う場合の総論を「遺産相続対策に有効な生命保険の使い方」に記載しましたが、今回はその中の「死亡保険金」を一時所得にするという部分をクローズアップしていきます。
生命保険に加入するときに3つの立場の人を設定していきます。
3つの立場とは、
①契約者
②被保険者
③死亡・高度障害保険金受取人
です。
皆様が加入している生命保険契約の①契約者②被保険者③保険金受取人はどうなっているでしょうか?
何気なしに生命保険に加入していた場合は、恐らく以下のような契約形態になっていることが多いと思います。
①契約者=自分
②被保険者=自分
③死亡・高度障害保険金受取人=家族(配偶者、子、親など)
ご自身の契約形態を知りたい場合は、ご契約の保険証券に明記されていますので確認してみてください。
では、この契約形態で保険金受取人の人が死亡保険金を受け取った際には、どんな税金がかかるでしょうか。
この場合、「相続税」の対象となります。
相続税がかからない場合
「相続税」の対象ということは、受け取った死亡保険金の金額を他の課税遺産総額と合算して「相続税」を計算することになります。なお「相続税」対象の死亡保険金は、「500万円×法定相続人数」は控除できます。例えば、法定相続人数が3人で、受け取った死亡保険金額が5000万円だった場合は、(3000万円ー500万円×3人)を計算して1500万円を他の課税遺産総額と合算することになります。
そして生命保険金と他の課税遺産総額を合算したら、基礎控除額を差し引くことができます。相続税計算の基礎控除額は、「3000万円+600万円×法定相続人数」です。法定相続人が3人だとしますと、(3000万円+600万円×3人)で4800万円の課税遺産総額までは相続税がかからないこととなります。
遺産が自宅と現金が少々という場合、「相続税」対象の生命保険金にすることで課税されない可能性も高くなります。なぜなら、自宅の土地は、一定の条件の下に評価額を最大80減らすことができます。建物は建ててから年数が経っていれば減価償却され評価額もかなり下がっていることが多いです。建物は固定資産税の納税通知書に評価額が記載されていますので、確認してみてください。その金額が、そのまま相続税計算の評価額となります。
例えば、
法定相続人が3人
土地の路線価価額が5000万円→小規模宅地の特例で80%減額できると、評価額1000万円
築20年の建物評価額が400万円
現金が1500万円
生命保険3000万円→課税対象の生命保険金額が1500万円
このケースの課税遺産総額を計算しますと、
1000万円+400万円+1500万円+1500万円=4400万円
となります。
法定相続人が3人の相続税基礎控除額は4800万円ですので、上記のケースでは相続税がかからないということになります。
相続税がかかる場合
では、遺産を計算すると50%の税率で相続税がかかるようなケースを考えてみましょう。
税率50%ということは、せっかく受け取った生命保険金にも約50%の課税がかかり、手元には半分近くしか残らないということになります。
1億円の生命保険金を受け取ったけども手元に残るのは5000万円、2億円の生命保険金を受け取ったけども手元に残るのは1億円ということになるのです。
さらに、相続税も所得税と同様に累進課税となっています。金額が多くなれば高い税率になってきますので、生命保険金を受け取ることにより税率が高くなることもあります。相続税の最高税率は55%ですので注意が必要です。
*参考:相続税の税率
【平成27年1月1日以降の場合】相続税の速算表
法定相続分の応ずる取得金額 税率 控除額
1000万円以下 10% -
3000万円以下 15% 50万円
5000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1700万円
3億円以下 45% 2700万円
6億円以下 50% 4200万円
6億円超 55% 7200万円
参考:「国税庁」
では、生命保険金が相続財産(正しくは、みなし相続財産)とならないようにしてみたらいかがでしょうか。
生命保険金は、生命保険契約の形態によって、保険金の課税の種類が変わってきます。
上記では「相続税」課税の契約をお話ししてきました。
その他に、「所得税」と「贈与税」課税になる契約形態があります。
「所得税」課税になる生命保険契約の形態(例)
契約者:子
被保険者:親
保険金受取人:子
この生命保険契約の形態ですと、保険料は子が支払い、保険金も同一の子が受け取るということになります。自分で支払って自分で受け取るので、一時所得として扱うことになり、一時所得金額をその年の年間所得と合算することになります。
*参考:所得税の税率
【平成31年4月1日現在法令等】所得税の速算表
課税される所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% -
195万円を超え330万円以下 10% 97,500円
330万円を超え695万円以下 20% 427,500円
695万円を超え900万円以下 23% 636,000円
900万円を超え1800万円以下 33% 1,536,000円
1800万円を超え4000万円以下 40% 2,796,000円
4000万円超 45% 4,796,000円
参考:「国税庁」
「贈与税」課税になる生命保険契約の形態(例)
契約者:父
被保険者:母
保険金受取人:子
この生命保険契約の形態ですと、保険料の支払いに全く関係のない子が保険金を受取れていますので、子が受け取った生命保険金は父から子への贈与として扱うことになります。生命保険金を「贈与税」課税にしてしまうと高い税率で課税される可能性が高いので、通常この契約形態にはしません。むしろ、ならないように気を付けるべきです。
生命保険金が「所得税」扱いとなる契約形態を考える
それでは、生命保険金を「相続税」課税にせずに、「所得税」課税にすると、どういう時に、どういう効果があるのかを考えていきましょう。
例えば、相続税率が30%になる被相続人が被保険者で5000万円の生命保険に加入していたとします。
契約形態は、
契約者:被相続人(父)
被保険者:被相続人(父)
保険金受取人:相続人(長男)
としましょう。これは「相続税」課税の死亡保険金となります。
相続税率が30%だとしますと、大体1500万円は相続税がかかることになりますので、手元に残る死亡保険金は、35000万円となります。
では、契約形態の違う生命保険契約をしていたらどうでしょうか。
上と同じで、相続税率が30%になる被相続人が被保険者で5000万円の生命保険に加入していたとします。
契約形態は、
契約者:相続人(長男)
被保険者:被相続人(父)
保険金受取人:相続人(長男)
とします。すると今回は、「所得税」課税の死亡保険金となります。
受け取った保険金は「一時所得」の扱いになります。
「一時所得」の計算は以下の通りに行います。
(受取保険金額ー支払保険料ー50万円)×1/2
当保険契約の支払保険料を4500万円とします。そして、この式に当てはめていくと、
(5000万円ー4500万円―50万円)×1/2=225万円となります。
この225万円を相続人(長男)の年間所得に合算して所得税計算をするのです。
相続人(長男)が稼ぎの多い人で、所得税・住民税を合わせた税率が55%だとしますと、保険金分の税負担額は、225万円×55%=約124万円です。
この生命保険の契約者は相続人(長男)ですので、保険料は相続人(長男)が支払うことになります。稼ぎの多い相続人(長男)が普通に支払ってもいいのですが、保険料を被相続人(父)が贈与してあげて支払っていく方法があります。
今回契約の年間保険料が225万円で、20年間の払込期間だったとします。仮に年間225万円の暦年贈与をした場合、贈与税額は11.5万円です。同金額を20回支払うと230万円の贈与税支払いとなります。先述しました保険金にかかる所得税は124万円でした。所得税124万円+贈与税230万円=354万円の合計課税金額となります。
同じ死亡保険金額5000万円でも、「相続税」か「所得税」かで比べてみますと大きな違いが出てくることがお分かりになると思います。今回比較した税額は1500万円と354万円でした。ただし、相続税率等によって効果の有無があることもご考慮ください。
また贈与にあたっては、名義預金とされないようにしたり、定期金に関する権利の贈与とみなされないようにする等、しっかりと行う必要があります。
所轄の税務署や専門の税理士へ確認等を行いましょう。
エヌ・コンコード・コンサルティング株式会社は、その相続対策立案・実行のお手伝いをします。