養子縁組を相続対策として考える
2020.05.26
「養子縁組をすると、相続税が安くなる」
なんていう事を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか?
真実はどうでしょうか。
ここでは、養子縁組について詳しく見ていきましょう。
養子縁組とは
養子縁組とは、具体的な血縁関係とは無関係に人為的に親子関係を発生させることです。
養子関係を結んだ親子は、それぞれに養親と養子といい、血縁関係のある親子の実親、実子と対義語の関係となります。
さて、養子縁組と一言でいう場合が多いですが、養子縁組には「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類あります。
この2つは全く性質が違いますので、それぞれについて見ていきましょう。
「普通養子縁組」
通常、養子縁組と呼ぶものは、こちらの「普通養子縁組」を指していることが多いでしょう。
「普通養子縁組」は、養親と養子の間に法律上の親子関係が成立しますが、実親との親子関係が解消されるわけではありません。
よって、「普通養子縁組」によって養子となった人は、実親と養親の2組の親を持つことになります。
つまり、「普通養子縁組」の養子は、2組の親から相続する権利や、扶養を受ける権利を持ちますので、実親からも養親からも財産を相続できますし、扶養を受けることができるのです。
「特別養子縁組」
こちらは、実親との親子関係が解消され、養親のみが法律上の親となる制度です。
ですので「特別養子縁組」をすることによって、実親の財産を相続する権利や、扶養を受ける権利は消滅します。
つまり「特別養子縁組」は、実親との親子関係を完全に断絶する制度です。
この制度を使う理由として、実親が実子を育てる気が全くないとか、虐待している、経済的に困窮し育てられない等が挙げられます。
実際には、児童相談所や民間の養子縁組あっせん機関によって実親に養育されていない子と養親を結びつけたり、再婚した配偶者の連れ子と縁組する等のことが行われています。ただし、連れ子との「特別養子縁組」は、別居した方の実親と大きな問題がある等の理由がない限りは、なかなか認められないようです。
こうして見てきますと、実子にとっては相続権や扶養権の観点から「普通養子縁組」の方がメリットが多くなっています。
養子になる子と実親との関係に余程の問題がない限りは、「普通養子縁組」を選択することになるのではないでしょうか。
また、相続税の対策を考えて養子縁組する場合や、再婚相手の連れ子、子宝に恵まれない夫婦が親戚等の子を養子縁組する場合は、ほとんど「普通養子縁組」を選択することになるでしょう。
では、養子縁組をすると相続税対策になると言われるのはどういうことでしょうか。
養子縁組が相続税に与える影響
相続税を計算する際には、故人の遺産から差し引くことのできる「基礎控除」があります。
「基礎控除」の金額は、(3,000万円+600万円×法定相続人数)の式に当てはめて計算します。
法定相続人数が2人であれば、
3,000万円+600万円×2人=4,200万円
法定相続人数が3人であれば、
3,000万円+600万円×3人=4,800万円
となります。
つまり、法定相続人数が多ければ多いほど控除できる金額が増えますので、相続税額が減ることになるにのです。
ということは、養子縁組をしますと法定相続人数が増えますので控除できる金額が増えることになり、相続税額を減らすことができるのです。
では、100人と養子縁組すれば600万円×100人で、6億円控除額を増やせるのでしょうか?
残念ながら、そうはなりません。
実は、控除額を減らすことができる養子の人数は以下の通りに定められているのです。
実子がいる場合:1人まで
実子がいない場合:2人まで
となっていて、節税目的の養子縁組に歯止めがかけられているのです。
また以下のような文言が国税庁ホームページに記載されています。
(1) 被相続人に実の子供がいる場合
一人までです。- (2) 被相続人に実の子供がいない場合
二人までです。
ただし、養子の数を法定相続人の数に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、その原因となる 養子の数は、上記(1)又は(2)の養子の数に含めることはできません。
(国税庁HP)
養子縁組にはそれなりの理由が必要となるでしょう。
養子縁組で法定相続人数を増やす効果は、上記の基礎控除だけでなく、生命保険金の非課税限度額と、死亡退職金の非課税限度額も含まれます。
生命保険金と死亡退職金ともに、(500万円×法定相続人数 )が非課税となりますので、養子縁組による法定相続人数の増加効果は大きいのです。
*上記のように、養子を法定相続人に加算できる限度人数は相続税計算上のことであって、民法上は養子縁組の人数に制限はありませんので、何人でも養子縁組できます。
養子は他の法定相続人と同等の権利がある
相続の民法改正により、「特別の寄与の制度」が新設されています。
「特別の寄与」とは例えば、故人の生前に、故人の長男のお嫁さんが介護等のお世話を一手に担っていた場合のことを指します。
長男のお嫁さんが、一人で苦しい思いをしたにもかかわらず、お嫁さんは個人の法定相続人ではないため相続権はありません。
このような場合、以前はお嫁さんが遺産の一部をもらうことは困難でしたが、民法改正によりお嫁さんが遺産の一部を、故人のお世話代として請求することができるようになりました。
しかしながら、この請求をするためにはお嫁さんが、家庭裁判所に寄与代を認めてもらうための申し立てをしなければいけません。親戚間の関係等を考えるとハードルは低くないかもしれません。
そこで、故人の存命中にお嫁さんを養子に入れるということもできます。故人がお嫁さんに深く感謝している場合には、一つの選択肢であると思います。法定相続人の一人となりますので、家庭裁判所へ申し立てるような行為をしなくても、遺産をもらうことが可能になります。
ただし、この場合はお嫁さんにも「遺留分」が発生しますので、相続人間のトラブルが発生する可能性もあります。この方法を選択すr場合は相続人間の調整も行いながら実行していく必要があるでしょう。調整できなそうな場合は、他の方法を選択した方がいいかもしれません。「遺留分」は、それほど注意が必要なものです。(「遺留分」について詳しく知りたい方は「遺留分について」をご覧ください。)
養子が養親よりも先に死んでしまったら?
実親よりも早くに実子が他界していた場合に、実親が亡くなった際には実子の子(実親の孫)が相続します。これ代襲相続と言います。
では、養子が養親より先に他界していた場合はどうなるのでしょうか?
この場合は、以下のように、養子の子が代襲相続する場合と、代襲相続しない場合があります。
①養子縁組の後に生まれた養子の子は、代襲相続人となる(実孫と同じ扱い)
②養子縁組の前に生まれた子は、代襲相続人とならない(実孫として扱わない)
これは、養親と養子の関係が成立する前、つまり親族関係が成立する前に生まれていた子は代襲相続の権利は無いということになります。
養子縁組が認められる要件
「普通養子縁組」が認められる要件
・養親が成年者であること
・養子が尊属または年長者でないこと
・後見人が被後見人を養子にする場合(後見人の任務が終了した後、まだその管理の計算が終わらない間も同様)は、家庭裁判所の許可を得ていること
・結婚している人が未成年者を養子にする場合は、夫婦共に養親になること
・養親または養子となる人が結婚している場合は、配偶者の同意を得ること
・養親となる人が養子となる人の養親となる意思があること
・養子となる人が養親となる人の養子になる意思があること(養子となる人が15歳未満の場合は、法定代理人が代わりに承諾
・養子となる人が未成年者の場合は、家庭裁判所の許可を得ていること(養子が、自分や配偶者の直系尊属の場合は許可不要)
・養子縁組の届け出をしていること
「特別養子縁組」が認められる要件
・夫婦共に養親になること(夫婦の一方の連れ子の場合は養親となるのは夫婦のもう一方のみ)
・養親となる夫婦の少なくともどちらかが25歳以上で、もう一方が20歳以上であること
・実の両親の同意があること(意思表示ができない場合や、虐待など、養子となる人の利益を著しく害する理由がある場合は、同意不要)
・養子が6歳未満であること(6歳未満の時から投信となる人に看護されている場合は8歳未満に条件緩和)
・父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であること、その他別の事情がある場合において、子の利益のため特に必要があること
・特別養子縁組を請求してから6か月間監護した状況(請求前の監護の状況が明らかなときは監護を始めた時から6か月間の状況)を考慮して、特別養子縁組を成立させることがふさわしいと家庭裁判所に認められること
まとめ
養子縁組をすることによって、相続税計算の基礎控除額は確実に増えますので、相続税額を減らすことができます。
ただし、国税庁ホームページにも記載されている通り、節税目的の養子縁組は認めませんよ、と掲載されていますので、養子縁組をする目的を明確にする必要があります。
また、養子にも「遺留分」という権利があることを考慮して相続対策をすることが重要です。
節税ばかりを考えて、遺産分割がまとまらずに相続人たちが対立してしまっては本末転倒です。
相続対策は、全体を見渡して総合的に考えていく必要があるのです。
エヌ・コンコード・コンサルティング株式会社は、そのお手伝いをしてまいります。