相続対策における財産の名義変更活用
2020.07.09
財産が誰の所有かどうかを、どうやって知ることができるのでしょうか。
基本的には、預貯金であれば預貯金口座の名義人、生命保険契約であれば保険証券記載の契約者や保険金受取人、不動産であれば登記に記載の所有者ということになります。これらの名義を変えることを名義変更と言いますが、名義変更をしますと所有する権利も変更されることになります。
では、勝手に次々と名義変更をするだけで所有者を変えていくことができるのでしょうか?基本的には変わることになります。しかし気を付けなければならないのは、所有者が変わるたびに相応の対価が必要になるということです。そして、その対価に対して必ず課税の対象になるということです。相応の対価とは、名義変更する対象物を貰うのかいくらで買うのか、あげるのかいくらで売るのか、ということです。
今回は、
①預貯金
②生命保険契約
③不動産
という財産それぞれの名義変更に関して、ポイントと留意点をまとめます。
①預貯金の名義
預貯金に関しましては名義変更というよりも、誰の名義の預貯金口座に入出金があるのかということになりますので、あえてこの項の見出しを名義変更ではなく「預貯金の名義」とさせていただきました。
先ず基本的に預貯金口座に入っているお金は、その口座名義人のお金となります。では、自分の預貯金口座に入っているお金を、自分以外の口座に移し替えた場合はどうなるのでしょうか?
何かの対価としてお金を移動させた場合は譲渡所得税の対象になります。何かモノを買ってお金を振り込むといった具合です。この場合は、モノを売った側の利益に対して譲渡所得税が課税されます。
なんの対価でもなく、ただ単に自分以外の口座へお金を移動させた場合は贈与税課税の対象です。つまりお金をあげたということです。家族の口座間移動でも贈与税の対象となりますので注意が必要です。ただし暦年贈与が使える場合は贈与額年間110万円までは贈与税が非課税となります。また扶養者の生活費や学費も非課税となります。 贈与について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。→ 「贈与はどうやってすればいいの」
また相続対策として子や孫へ生前贈与している場合には注意が必要です。例えば子や孫の名義の預貯金口座を作り、父母や祖父母がその口座へお金を入れるという相続対策をしている方が多くいます。この子や孫名義の口座から父母や祖父母が預貯金を下ろしたり、口座の存在を子や孫が知らなかったりすると「名義預金」とみなされ、贈与がなかったことになってしまいます。これは名義だけは子や孫になっているけど、結局は父母や祖父母のお金ですよねという見解で贈与がなかったこととされ、相続財産に戻され相続税の追徴課税が生じるという現象です。こうならないように、毎年贈与契約書をしっかりと作成するなどを行っていく必要があります。ご相談はこちらから→ 「お問い合わせ」
②生命保険契約の名義変更
生命保険契約で受け取る死亡保険金はいずれかの課税の対象となります。
課税のパターンは以下の通りです。
パターンA:契約者=親 被保険者=親 保険金受取人=配偶者 →相続税
パターンB:契約者=子 被保険者=親 保険金受取人=子 →所得税
パターンC:契約者=母 被保険者=父 保険金受取人=子 →贈与税
生命保険契約で一番多くみられるのはパターンAの相続税パターンです。なぜならば相続税計算には基礎控除の3,000万円+600万円×法定相続人数に加えて、生命保険金の非課税枠500万円×法定相続人数を控除できるからです。例えば法定相続人が4人いる場合は、合計で7,400万円の遺産と生命保険金が非課税となるのです。
死亡保険金を相続税対象から所得税対象へ
しかし財産が沢山あり相続税非課税枠を大きく超えるような方は、相続税パターンの生命保険金により相続税が膨れ上がってしまう現象が起きてしまいます。ですのでパターンBの所得税パターンの保険に加入した方がいい場合も出てくるのです。しかし親の身体状態が悪く新しい生命保険に加入できないこともあります。この場合、昔から加入していた生命保険契約の契約者名儀と保険金受取人名義を変更するという選択肢もあります。契約者の名義変更を行った死亡保険金の課税は相続税パターンで保険料を支払った期間と所得税パターンで保険料を支払った期間を案分して相続税と所得税を支払います。こうすることにより相続税が多額にかかる方は、全額が相続税になるよりは課税額を抑えることができるのです。
死亡保険金受取人を配偶者から子へ
生命保険契約で一番多いパターンは、相続税パターンというお話をしました。そして保険金受取人に指定されている方は配偶者であることが圧倒的に多くなっています。これは、ある意味理に適っています。旦那さんが亡くなった後の奥様の生活費としても役立ちますし、相続税の観点からは配偶者控除があり1億6千万円か法定相続分までは奥様には相続税がかからないので生命保険金に課税されない可能性が高くなります。
しかし、相続には2次相続というものがあります。夫婦は2人いますので、最初の一人目が1次相続、二人目が2次相続というわけです。そして2次相続の際には配偶者がいないということになりますので、上記配偶者控除が使えない相続となるのです。配偶者控除は1億6千万円の遺産でも非課税ですので非常に大きなインパクトを持っています。
このことを考えますと、1次相続で配偶者をフルに使って生命保険金も配偶者へ受け取ってもらい相続税額を減らしたとしても、2次相続で多額の相続税が発生し子供たちが困ってしまうことも考えられます。
そこで、生命保険金受取人を配偶者ではなく子供にしておくという方法も選択肢に上がってくるのです。(もちろん配偶者の生活費は確保する必要があります)事前に上手く計算をして対策を行うと1次と2次の相続税合計額を低く抑えることが可能になるのです。
この場合、子供が保険金受取人になる生命保険に新たに加入する方法もありますが、すでに加入している生命保険の保険金受取人名義を変更することもできますので、何が最善かをしっかり考えて行動しましょう。 ご相談はこちらから→ 「お問い合わせ」
不動産の名義変更
不動産の名義変更をするのは、売買をした時、贈与した時や相続した時などです。手続きは移転の登記をすることです。しかしながら登記は義務付けられてはいません。(現在義務化を検討中です)さすがに売買する際には登記をしないとお金だけ出して所有権を別人に持ってかれてしまう可能性もあるので登記をすると思いますが、相続の際には移転登記をせずにほったらかしているケースは少なくありません。実際に6代前の方が登記上所有者となっているケースもありました。
名義変更をしていないと何か不具合はあるのでしょうか。
あります。
登記上の所有者がすでに亡くなっている方である場合には、その不動産を売ることができせん。お金を借りる際に担保にすることもできません。
このような不動産の売買等を行う場合には、現在所有している人の名義で登記する必要があります。登記は自分でもできますが、面倒等を考えますと司法書士に依頼することをお勧めします。 ご相談はこちらから→ 「お問い合わせ」
相続時の変更登記は被相続人の戸籍謄本や被相続人全員の印鑑証明等が必要になります。相続人の中で認知症の人がいる場合は後見人等に頼むことになります。
時々、相続対策として不動産をちょこちょこと生前贈与していきたいということを耳にします。ちょこちょこと贈与するということは暦年贈与の年間110万円以下税枠を使うということで相続税と贈与税をの金額を抑えることができます。しかし、ちょこちょこと贈与するたびに移転登記をしなければならず、その都度登録免許税等の費用が掛かりますので相続税・贈与税を支払うのとどちらが得なのかを計算することをお勧めします。もしくは別の贈与方法を選択する方法も考えられます。 贈与について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。→ 「贈与はどうやってすればいいの?」