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Nマガジン

現金で持っていると相続で損をするって本当なの?

2020.08.29

相続の相談を受ける際にこう言われる相談者が結構います。

「相続が起きた時に現金のままにしておくと損をすると聞いた。現金はできるだけ少なくしておこうと思う。」

このようなご意見に対しての返事はどうしましょうか。

「資産はバランスよく持っておきましょう。」

と私はお答えします。

それでは、この回答の意味を深堀していきましょう。

最初に相続では何が問題になることが多いのかを見ていきましょう。

 

相続で問題になること


〇遺産分割

相続で困ることで一番最初に頭に浮かびそうなのが「相続税」のことだと思いますが、実は「相続税」とは異なる要因で相続トラブルになっていることが多くなっています。その相続トラブルの要因とは「遺産の分割」です。遺産を相続人たちでどう分けるのかを決める際にトラブルになることが多いのです。ですので相続の対策を考える際には、最初に遺産分割がスムーズにできるのかを検証していく必要があります。

では「遺産の分割」という観点から見て相続財産が現金であった場合に何か不都合があるのでしょうか?仮に相続財産が全て現金であったとしましても不都合は全く無いと言えるのではないでしょうか。現金であるならば、いかようにでも分割することができますよね。均等に分けることもできますし、そうでない分け方も自由自在にすることが可能となります。そして現金を貰って嬉しくない人はいないですよね。誰しもが貰って嬉しいはずです。

「遺産の分割」という観点から見ますと、実は現金が最も優れた資産であるのではないでしょうか。

〇相続税

ア)相続税を支払う(納税)

次に相続税の納税という観点から見て「現金」はどうなのかを考えてみましょう。相続税は相続する財産の価値に対して課税が生じるわけですので、現金以外にも不動産や株式などにも税金がかかるということになります。すべての相続財産の価値を計算して、そこから相続税の金額をはじき出していくのですが、ここで注意しなければいけないことは相続税は原則として現金で支払うということです。

例えば、相続財産が全部で一億円の価値のある不動産で現金等は無かったとします。(ここでは諸々の特例は考慮しないことにします)

不動産1億円には相続税がかかりますが、相続税は現金で支払わなければなりません。しかし相続財産には現金預貯金がありませんので、自分が持っている現金預貯金の中から相続税を支払う必要性が出てきます。自分の持っている現金預貯金がない場合は、高い利息を払って延納をするか不動産を売却して現金に換えて納税する等の措置が必要になります。どちらにしてもハードな状況かと思います。

では、相続財産が現金預貯金のみだったら如何でしょうか?相続税は累進課税で最高税率は55%となりますが、相続した財産の価値以上に課税されることはありません。相続財産が1億円で相続税が2億円というようなことはあり得ないのです。ということは相続財産が現金のみであった場合には、どんなに多額の財産があって多額の相続税がかかろうが、相続税を支払えないということはないのです。相続税が5億円かかろうが10億円かかろうがそれ以上に現金を相続しているので相続税を支払うことができるというわけです。

つまり相続税の納税という観点から見ても、相続財産が現金であるということは最強といえるでしょう。相続時に現金を潤沢にするためにために生命保険に加入しておくという手段も大変有効です。相続対策の一つとしてご検討してみてはいかがでしょうか。

とはいえ5億円、10億円の相続税がかかるとなれば、この税金を減らすことはできないのかと思うのが人間の真情でしょう。

次に相続税の節税について考えていきましょう。

イ)相続税を減らす(節税)

今回の冒頭に記載しましたよくあるご意見の「現金のままだと相続の際に損してしまうのではないか」といったことの真意は、まさにこの節税のことを指しておっしゃられている言葉です。

相続財産は現金・預貯金の他に、株式、有価証券、土地や建物などの不動産、会員権などがあります。相続税を計算するためのそれぞれの財産の価値は国税庁が定めたルールに従い計算して算出します。相続税計算算出について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

→ 「相続税の計算方法」

この財産の評価方法を利用して現金を不動産に変えると価値を下げることが可能になります。単純に現金を土地や建物に変えるだけでも価値を下げられるのですが、この土地にアパート等を建てて人に貸すことによってさらに価値を下げることができるのです。現金のままですと価値はそのままです。現金5,000万円の価値は5,000万円のままということです。こうしてみますと、相続時に現金で持っていると損をしてしまう気がします。本当にそうでしょうか?ここでもっとよく一緒に考えていきましょう。

現金を不動産に変えるだけで価値は確実に下がりますので、相続税の節税となることは確かです。そして購入した土地にアパートのような収益物件を建てることで、その後の家賃収入も見込めるため安定収入も確保できる可能性が出てきます。そこで以下のような提案話法が出来上がってきます。

「現金のままだと相続税をたんまり取られますよ。相続の時に現金なんかそんなに残してはいけません。収益物件を購入しておけば相続財産の価値を下げられます。そして収益物件ですので定期的に家賃収入が入り、老後の生活も安泰です。貯金も増えていきますから相続税納税資金も作っていけます。また借り入れをして物件を購入しますと相続税をさらに減らせますよ。借入金は相続財産から差し引くことができますので!」

という具合のものです。

では、このセールストークを一つずつ検証していきましょう。

 

「現金のままだと相続税をたんまり取られますよ」

→現金は評価を下げることを一切できませんので、ある意味正しいでしょう。ただし現金だからといって相続税が多額にかかるわけではなく財産価値が高いものはどんな種類の財産でも相応の相続税がかかることを認識しておきましょう。

 

「相続の時に現金なんかそんなに残してはいけません」

→相続税がかかる場合には要注意の言葉です。相続税の納税は現金で支払う必要がありますので納税資金が確保できているのかを検証する必要があります。相続税納税を現金ではなく物納でするという方法もありますが認めてもらえないことも多々ありますので、やはり現金での納税を考えていくべきでしょう。

 

「収益物件を購入しておけば相続財産の価値を下げられます」

→土地の価値は相続税を計算する際に基本的に路線価というものを用います。この路線価は売買される時価よりも低く設定されていますので、価値を下げることできると言えるでしょう。建物は減価償却されていきますので建ててから年数が経過しますと価値は下がっていきます。また自分の土地に建物を建てて人に貸している場合は、貸家建付地といい不動産の評価をさらに下げることが可能です。よってこの部分のトークは正しいと言えるでしょう。なお不動産の評価についてく詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。→ 「遺産の不動産価値はどうやって決めるの?~不動産評価~」

 

「そして収益物件ですので定期的に家賃収入が入り、老後の生活も安泰です。貯金も増えていきますから相続税納税資金も作っていけます。」

→確かにアパート等の収益物件を購入しますと入居者からの家賃収入が入ってくることになります。しかし資金を借入して収益物件を購入する場合には要注意です。借入をした場合には当然毎月の返済が生じます。家賃収入から返済をしていくことになりますが、しっかりと返済できる収入を得られるのかを事前に検証しなければいけません。家賃収入も常に満室であるか分かりませんので空室を見込んだ趣味レーションが必要になりますし、修繕などの費用も見込んでいかなければなりません。そして現状は建築コストも高い状況にあります。借入利息が低くても建築コストが高いと、それなりの借入金返済額となってきます。安泰の老後生活、潤沢な貯蓄形成が本当にできるのかどうかをしっかりと見極める必要があります。

 

「また借り入れをして物件を購入しますと相続税をさらに減らせますよ。借入金は相続財産から差し引くことができますので!」

→相続税計算の際に、借入金は負の財産として相続財産から差し引くことができます。この点は正しいと言えるでしょう。しかしよく考えてみましょう。借入をしますと借りた分の現金を得ることになります。例えば、5,000万円借りますと借入金5,000万円が帳簿に載ることになりますが同時に現金5,000万円を得ることになります。実はこの時点では借入金5,000万円と現金5,000万円が同時に発生して相続財産の金額は全く変化しないということになります。ここで入ってきた現金5,000万円でアパート等の収益物件を購入しますと既述しましたようにに貸家建付地として価値が下がりますので、価値が下がった部分については相続税節税になったと言えます。借入金全額が節税に使えるということではないのです。また借入をして購入する場合には節税だけを考えずに返済できるのかどうかを十分に考慮していくことが必須です。

 

 

まとめ


以上見てきましたように相続の際に現金があるということは決して損をするということでないことがお分かりになったでしょう。

相続対策は、

・遺産分割対策

・納税資金対策

・節税対策

の3つをバランスよく行う必要があります。

そして現金は分割しやすい財産であり、納税することもできる財産です。トラブルにならないように分割できるのか、相続税の納税資金はあるのかをしっかりと見極めて必要程度の現金を確保する必要があります。もちろん相続財産を所有している方の生活費も確保しなければなりません。これらを確保しておいて初めて節税を考えるべきでだと考えます。

 

 

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