相続と感情(遺言書編)
2019.10.03
前回の「相続と感情」では、相続対策を考える際に人間の感情をケアしていく重要性について述べてきました。
今回は相続対策として作成した遺言書が、人間の感情によって有効な対策とならなかった例をお話しします。
このお話しは、子供のいないご夫婦のケースになります。
先ず子供のいないご夫婦の相続では、誰が法定相続人になるかからお話ししていきます。
ご夫婦のどちらかが亡くなられ法定相続人となるのは、配偶者と被相続人の親です。
親が既に他界していた場合は、配偶者と被相続人の兄弟となります。
被相続人が遺言を残さずに他界した場合、法定相続人が遺産分割協議をして遺産の分け方を決めることになります。つまり子供のいない場合の相続は亡くなった人の配偶者と、亡くなった人の親や兄弟が話し合って遺産の分け方を決めていく必要があります。
残された配偶者は、結婚相手の親や兄弟とお金などの資産の取り分の話しをしていく訳です。実際には血の繋がっていない人達とです。結構しんどいかもしれないですよね。
親は年長者として大らかに接してくれるかもしれませんが、兄弟はどうでしょうか?
結婚相手の兄弟とは普段会っていなかったりして疎遠になっていることも多々あります。お金の話しをするのは、やはりしんどいですよね。
今回の例では子供のいないご夫婦の旦那様が上記の事を鑑みて、自分がいなくなった後に妻が兄弟と遺産分割協議をすることは困難と考え遺言を残されたケースです。
遺言の内容は、自分の遺産は全て妻へというものです。その理由として妻に稼ぐ力がないことを書き記され、ご両親やご兄弟への感謝の言葉等も記されていました。
この旦那様が遺言を公正証書遺言として残された後に急されてしまったのです。
若すぎる最期であったために被相続人のご両親もご健在です。
ということは法定相続人は妻(配偶者)と被相続人のご両親の3人ということになります。
そして旦那様は遺産のすべてを妻へという遺言を残されていましたので、遺産分割協議をしないで相続手続きをすることができます。
しかしこのケースでは一つ問題があります。兄弟には遺留分がありませんが、ご両親には遺留分があります。遺留分とは法定相続人が主張すれば絶対に貰える権利であり、このケースでは遺産の6分の1となります。また、この権利は遺言によっても侵せない権利です。ですので遺言で遺産は全て妻へと記載されていても、ご両親が遺留分を主張した場合、妻は遺産の6分の1をご両親へ支払わなければなりません。ただご両親が遺留分を主張しなかった場合は、妻が全ての遺産を相続して完了となります。
果たしてこのケースではどうなったのでしょうか。
妻は公正証書遺言を持参し、ご両親とご兄弟に会いに行きました。そして皆の前で遺言を読み終えてからご両親に渡しました。ここで被相続人の父は驚くべき行動を取ったのです。なんと息子の公正証書遺言を「ふざけるな!」と言いながら投げ捨ててしまったそうです。そして、長男の財産は全て俺のものだと叫んだそうです。
このお話しを聞いたとき私は、なんて悲しい話しなんだろうと思いました。この遺言を見せた妻も義父の反応にはすっかり参っていました。
この件は今では遺留分をご両親に支払い解決していますが、心の遺恨は複数の人に残ったままです。
では、こうならないようにするにはどうしたらいいのでしょうか?
完全な答えはないかもしれませんが、遺言の内容を考えるときにご両親の遺留分も考慮すべきだったかもしれません。(ご両親がいない状態であれば、兄弟に遺留分が無いため遺言の内容通りになります)
義父の方も残されたお嫁さんの今後の生活費等を考えてあげられる思いやりがあれば、心に遺恨を残すようなことはなかったかもしれません。
相続には人間感情によって予期せぬ事態に陥ることも多々あります。
相続対策を考える際には、法務・税務などの事をしっかりと組み入れていくのはもちろんのこと、関係者がどういう思いをしてどう考えるかなども想像し組み入れていくことも大事なのです。
エヌコンコードコンサルティング株式会社はその対策のお手伝いをしてまいります。