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相続時精算課税制度はどんな時に使うの?

2020.05.10

相続対策では、生前に贈与することで大きな効果を生みだすことが多くあります。

贈与の種類は以下の通り、いくつかあります。

①暦年贈与

②贈与税の配偶者控除

③相続時精算課税制度

④住宅資金等の贈与

⑤教育資金の一括贈与

⑥結婚・子育て資金の一括贈与

⑦障害者への贈与

 

今回は、③の「相続時精算課税制度」に焦点を当て、どんなケースで選択すのかや注意点などをお話ししていきます。

 

 

「相続時精算課税制度」とは

制度の概要

贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母又は祖父母から、贈与を受けた年の1月1日において20歳以上の子又は孫に対して、財産を贈与した場合に選択できる制度です。

この制度を選択しますと、その年以降の贈与に特別控除額の2500万円を使うことができます。つまり、2500万円までは贈与税が課税されません。この控除額は複数年にわたり使えるもので、通算限度が2500万円ということです。2500万円を使い切りますと、はみ出た部分の金額に一律20%の贈与税が課税されます。

また、贈与財産の種類、金額、贈与回数には制限がありません。

税額の計算等

この制度の贈与者である父母又は祖父母が亡くなった際には、贈与した価額を相続財産に加算して相続税額を計算することになります。2500万円以上贈与をしていて、20%の贈与税を支払っていた場合は、贈与税額を相続税額から控除できます。控除しきれない部分については、相続税の申告をすることにより還付を受けることができます。相続財産と合算する贈与財産の価額は、贈与時の時価とされています。

なおこの制度は、「非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例(措法70の6の8)」や「個人の事業用資産についての贈与税の納税猶予及び免除の特例」を利用する際には、直系卑属(子や孫)や推定相続人以外の者でも適用できます。(贈与者と受贈者の年齢要件は同じです)ということは、事業承継にも使えることになります。

この制度を利用した場合は、毎年110万円の贈与税控除額のある「暦年贈与」の制度を使えなくなりますので、注意が必要です。途中で変更することもできません。

適用手続

相続時精算課税制度を選択しようとする受贈者(子や孫)は、最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの期間に納税地の所轄税務署長へ「相続時精算課税選択届出書}を、受贈者の戸籍謄本などの一定の書類と共に贈与税の申告書に添付して提出する必要があります。贈与税がかからなくても提出しなければなりません。

 

 

相続時精算課税制度の利用価値

 

この制度は、贈与した財産価値が贈与者の相続時に相続財産へ持ち戻されますので、利用すべきかどうかをよく考えないといけません。

相続時に相続税が課税されるケースでは、この制度の利用が無意味になる可能性もあります。ここでは、相続税がかかるケースと、かからないケースに分けて考えてみましょう。

 

「相続税がかかるケース」

何度も書きますが、「相続時精算課税制度」を使い贈与した価額を相続財産に加算します。ですので相続税がかかる場合は、何にしろ税金を払わなければならないということです。

ただ贈与した時点では、通算2500万円まで課税がありませんので、被相続人が亡くなった後ではなく、健在のうちに財産を移せるというメリットはあります。

ただし、「暦年贈与」の毎年110万円の控除をコツコツと使っていれば相続税がかからなくなったり、低い税率で済んだということもありますので、慎重に考えなくてはなりません。

 

この制度を使って、不動産等の現金ではない財産を贈与した場合も、もちろん相続財産に加算されますが、加算される価額は「贈与時の時価」です。

ということは、時間が経過すると価値が上がる財産はこの制度を使った方がいい、時間が経過すると価値が下がる財産はこの制度を使わない方がいいとなります。

 

例えば、不動産の土地と建物で考えてみましょう。

1等地等に土地を所有していたとしますと、時間の経過とともに価値が上がっていく可能性が高くなります。

この場合に「相続時精算課税制度」を使って贈与してみましょう。

2020年に贈与した時の時価は3000万円。

20××年に相続が起きた時の時価が6000万円だったとします。

「相続時精算課税制度」を使い贈与した土地の価値は相続財産に加算されますが、贈与した時の時価3000万円でいいのです。

この制度を使わずに土地を相続した場合は、6000万円で相続したことになり、相続税額は大きく変わってくるでしょう。

ただし、「相続時精算課税制度」を使うと、「小規模宅地の特例」を使えなくなります。この特例は、一定の要件を満たすと土地の相続税評価額を最大80%減額できますので、この制度を使える場合には、こちらを選択した方が得策になることが多いでしょう。

 

では、建物について考えてみましょう。

建物は通常減価償却されていきます。つまり、建物は時間の経過とともに価値が下がっていく財産となります。

ですので、建物を「相続時精算課税制度」を使って贈与した場合、損してしまうことになります。

贈与時に3000万円の価値があった建物が、相続時に800万円の価値に下がっていることもあり得ます。この場合、何もしなければ800万円の価額で相続できたのですが、「相続時精算課税制度」を使って贈与していた場合には3000万円で相続したことになってしまいます。

 

「相続税がかからないケース」

では、財産がいくらあるかを計算してみても相続税がかからないケースではどうでしょうか。

この場合に「相続時精算課税制度」を使って贈与して、贈与財産が相続財産に加算されても相続税がかからないとうことですので、大いに活用するべきでしょう。父母や祖父母が元気なうちに、子や孫の役に立つものを非課税で贈与してあげられるのです。ただ、むやみに贈与してしまうのは子や孫の成長を妨げる原因になるかもしれませんので、贈与財産の使途は明確にしておいた方がいいでしょう。

以下留意点を記します。

・「小規模宅地の特例」を使って相続税が非課税になる場合は要注意です。「相続時精算課税制度」を使うと「小規模宅地の特例」を使えなくなってしまうので、相続税がかからないと思っていたものが、課税対象になってしまう可能性があります。

・相続税がかからないと判断するには、相続財産が基礎控除以下の価額である必要があります。現在の基礎控除は(3000万円+600万円×法定相続人数)と定められています。法定相続人が3人ですと4800万円が基礎控除額で、これ以下の相続財産評価額であれば相続税がかかりません。この基礎控除の金額は、将来は法改正により変わっている可能性もあります。

 

 

まとめ

 

以上、「相続時精算課税制度」を見てきましたが、複雑な制度ですので利用するかどうかは慎重に考える必要があります。

この制度と合わせて出てくることが多い制度が、「暦年贈与」です。2つの制度は、どちらかしか使うことが出来ず、「相続時精算課税制度」を選択した後は絶対に後戻りできません。

「暦年贈与」の控除額は年間110万円と多くないように感じるかもしれませんが、110万円の控除を30年間使うと3300万円です。非課税で3300万円贈与できることになります。

長期的に相続対策を考えられる場合には「暦年贈与」は大きな効果を生みます。

ただし、法定相続人への暦年贈与は、相続開始から3年以内に実行された贈与価額は相続財産に加算されます。つまり相続開始から3年以内の「暦年贈与」は無かったことになるのです。

沙樹の寿命は、もうそんなに長くないという状況では、「暦年贈与」以外の贈与方法を選択するべきでしょう。

「相続時精算課税制度」が選択肢となるのは、価値が上がりそうな財産の贈与、一括して多額の贈与をしたい場合や、相続税がかからないケースでの制度利用が考えられるでしょう。

また、「非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例」や「個人の事業用資産についての贈与税の納税猶予及び免除の特例」を使った事業承継の際にも有効となるでしょう。

そして制度の選択には、「小規模宅地の特例」を考慮したりすしながら判断する必要がありますので、専門家等の意見も必要になることが多いでしょう。

エヌ・コンコード・コンサルティング株式会社は、その選択のお手伝いをします。

 

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