遺産分割を考える時に、特別受益を忘れていませんか?
2020.05.11
初めてお会いしたお客様と、こんな会話をした事が何度かあります。
私:「相続対策をしていますか?」
お客様:「してますよ。」
私:「では、何をしていらっしゃいますか?」
お客様:「子供に生前贈与してます。」
私:「素晴らしいですね!お子様は何人いらっしゃるのですか?」
お客様:「3人です。」
私:「相続対策で、3人のお子様に生前贈与してあげるなんて、お子様想いなんですね!」
お客様:「いや、娘一人にしかしてませんよ」
私:「そうなんですか・・・」
この会話から読み取れるのは、将来ある問題が出てくるかもしれないということです。
問題になりそうなのは、「特別受益」というものです。
では、「特別受益」とは何でしょうか。
「特別受益」とは
一部の相続人が被相続人から受け取った特別な利益です。一部の相続人だけが被相続人から多額の贈与を受けていた場合、他の相続人との分配バランスに不公平感が生じます。そこで、相続発生から10年以内に受けた贈与を「特別受益」として相続財産に持ち戻して遺産分割していくことになります。
よって、冒頭の会話にあったような一人だけに生前贈与をする相続対策は、この「特別受益」となります。ゆえに、遺産分割を考える際に「特別受益」を考慮しないと、トラブルになる可能性もあります。
「特別受益」に該当する贈与には何があるでしょうか。
・暦年贈与。
・遺言によって財産を渡すことを「遺贈」といいますが、この「遺贈」も特別受益です。
・婚姻のための贈与。ただ従前、結納金や結婚式の費用は親がふたんすることが当然と考えられていましたので、結納金や結婚式の費用は特別受益に含まれないことが多くなっています。
・扶養的金銭援助を超えた生計の資本としての贈与。住宅資金、居住用不動産、事業の開業資金、私立医科大学の学費等が特別受益となります。
・資産のバランスから偏った生命保険金。生命保険金は通常特別受益ではないですが、相続財産の大半が生命保険金で、偏った相続人だけが受取人といった場合は特別受益となります。
特別受益を加味した相続分の計算
特別受益がある場合の相続分を計算してみましょう。
*特別受益を受けた人の相続分
(相続財産+特別受益額)×法定相続分割合ー特別受益額=相続分
*特別受益を受けていない人の相続分
(相続財産+特別受益額)×法定相続分割合=相続分
で計算します。なお、特別受益額は相続開始時の時価で計算します。(相続時精算課税制度の財産評価と異なりますので注意しましょう)
例
相続人:長男、次男、長女
相続財産:現金6000万円
贈与:長女だけが暦年贈与で総額3000万円受け取っている
遺言内容:相続財産を3人で均等に仲良く分けなさい
遺言通りに分割すると、現金6000万円を相続人3人で分けることになりますので、それぞれ2000万円ずつ相続することになります。
きれいな分割に見えますが、問題になりそうなのが、長女だけが生前贈与で3000万円貰っているという点です。
この生前贈与額3000万円は「特別受益」として相続財産に持ち戻すことになります。
そうしますと相続財産は、現金6000万円+生前贈与額3000万円=9000万円が相続財産となります。
ということは、それぞれの法定相続分は9000万円÷3人=3000万円ということになります。
ですので、遺言通りに分割すると、それぞれ3000万円ずつ相続することになるのですが、長女は生前贈与で3000万円受け取っています。
よって、この場合に長女が相続後に貰える遺産は、法定相続分3000万円ー特別受益額3000万円=0円 となります。
そして、長男と次男が現金3000万円ずつ受け取ることになるのです。
相続税の計算について
では、特別受益を持ち戻した場合に相続税をどのように計算するのでしょうか。
実は、特別受益は相続税の対象ではありません。ですので、特別受益を加算する前の課税遺産総額で計算することになります。
ただし、相続開始3年以内に贈与された財産は相続財産に持ち戻します。
補足ですが、法定相続人以外に生前贈与した財産は、相続開始3年以内の持ち戻しはありません。法定相続人でない孫に贈与したほうがいいですよ、といわれる理由の一つがこのことです。
特別受益を考慮しないケース
特別受益を受けていても、相続財産に持ち戻さなくていいケースをご紹介します。
・相続人が一人だけ
当たり前ですが、相続人が一人だけであれ生前贈与等があっても、不公平感を持つ相手がいませんので特別受益を考慮する必要がありません。
・特別受益を受けた人が相続放棄をした場合
特別受益を受けた人が相続放棄をした場合、最初から相続人でなかったとみなされますので、特別受益を考慮する必要はありません。
・相続財産がマイナス
被相続人に多額の借金があった場合、相続財産がマイナスになることもあります。この場合に、相続人の中に特別受益を受けた人がいても特別受益を考慮する必要はありません。しかし場合によっては相続放棄等の手段も検討したほうがいいでしょう。
・遺言書に持戻し免除の意思表示がされている場合
遺言者が自分の事業を承継するために事業資金を贈与するような場合、持戻し免除の意思表示等をすることで、遺留分に関する規定に違反しない範囲で、効力を有するとなっています。
・他の相続人が請求しない場合
特別受益にあたる遺贈や贈与があったとしても、他の相続人が主張しなければ特別受益を考慮する必要はありません。上記の「特別受益を加味した相続分の計算」の項の例を再度見てみます。
相続人:長男、次男、長女
相続財産:現金6000万円
贈与:長女だけが暦年贈与で総額3000万円受け取っている
遺言内容:相続財産を3人で均等に仲良く分けなさい
上記では、特別受益を考慮した法定相続分は3000万円で長女は生前贈与で3000万円貰っているので、相続時に取得できる財産はゼロでした。
ただ、相続時に現存している現金6000万円を、法定相続人3人で3等分して、それぞれ2000万円ずつ相続したとしても、長男と次男が文句を言わなければ、遺産分割は成立するのです。
また遺贈の場合には遺言書がありますので、特別受益を立証しやすいですが、生前贈与の場合は立証が困難かもしれません。
特別受益がる場合の手続きの流れ
特別受益を受けていない相続人が、特別受益の存在を主張することが必要になります。
①特別受益があった証拠を探す
預金通帳とうの振込履歴や残高変動を調査したり、不動産の登記を調べたり証人を探して当時の状況を文章化する必要があります。
②話し合いで遺産分割協議書を作成する
集めた証拠書類等を基に、相続人同士で話し合い、特別受益額を確定して、特別受益の持戻しを行います。あくまでも話し合いですので、各相続人が納得する方法で相続額を決めることが重要です。話し合いがまとまったら、相続人全員が署名捺印した遺産分割協議書を作成します。
③話し合いがまとまらない場合
残念ながら話し合いがまとまらなかった場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てて、その中で特別受益を証明(主張)します。それでも解決しなかった場合には、そのまま裁判となり裁判所の判断を仰ぐことになります。③まで来てしまうと、精神的にも体力的にもかなりハードな状況になってしまいます。極力話し合いでまとまるよう、相続人全員が努力をする必要があります。
まとめ
特別受益が生まれるには何か事情があることが多いのでしょうか?
例えば、男子は自分で稼ぐようになるけど女子はそうもいかないかもしれないので、少し援助しておいてあげたいと親が考えることもあります。
収入がない子がいたら放っておけずに、生活費として援助してあげる親もいるでしょう。
これを、大人になっての小遣いと考えるか、収入のない子への扶養援助と見るか、判断が難しくなります。それぞれ立場の違う相続人達には、それぞれ違う思いがあることでしょう。
特別受益が存在すると思われる場合、被相続人が遺言を作成して特別受益が存在していることを明かしてあげることが必要かもしれません。
そして、なぜ贈与等をしたのか、だからこうして遺産分割をしてほしい、という考えも遺してあげることも円滑な遺産分割には必要かもしれません。また事情によっては遺言に特別受益の持戻し免除の意思表示をすることもできます。
やはり、生前の相続対策が円満な相続のために重要となることが多いでしょう。
エヌ・コンコード・コンサルティング株式会社は、円満の相続になるようにお手伝いをします。