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遺産を仲良く分けましょう~生命保険を使った代償分割~

2020.05.23

相続後のある場面です。

 

長男「親が遺してくれたのは、この自宅と、なけなしの預金だな。」

長女「そうだね。私たち3人でどうやって分けたらいいかな?」

次男「簡単だよ。3人で均等に分ければいいじゃないか。」

長男「自宅があるからなあ。均等っていうのも難しいんじゃないかな。」

次男「じゃあ自宅を売って、入ってきたお金と預金を3等分すればいいじゃないか。」

長男「自宅を売ってって言ったって、俺たち家族が今住んでるんだぜ。俺の家が無くなっちゃうじゃないか。」

次男「お金だって多少入るんだから、引っ越せばいいじゃないか。」

長男「ずいぶん乱暴な提案だな。引っ越すって言ったって子供の学校をどうするかとかいろいろな問題があるんだぞ。」

次男「今まで安い家賃で住んでられたんだからラッキーだろ。今自宅を売って、現金を山分けするのが公平ってもんだ。」

長男「なんだと。自分勝手な提案ばかりするな!親の面倒を最後まで見てきたのは俺だけだぞ!」

長女「もう2人ともやめてよ!」

 

兄弟の喧嘩が始まってしまいました。

こうなってしまうと、なかなか分割の話し合いはまとまらなくなってしまいます。

もし話し合いが長引いてしまった場合、遺産分割において制度上不利なことがたくさん出てきます。

どんな不利があるのかを見てみましょう。

 

 

遺産分割協議が成立しないデメリット

 

・相続税の控除制度(配偶者控除、小規模宅地等の特例)が使えなくなるので、相続税額が増えてしまいます。

(小規模宅地等の特例に詳しくお知りになりたい際は「小規模宅地等の特例~相続対策で使えるなら使わない手はありません~」をご覧ください)

・不動産等の所有が確定しないので、不動産の売却や、建替え・修繕ができない、建て替え費用の清算ができない等の問題が生じます。

・分割方法が決定されないと、預貯金をおろせなかったり、財産の有効活用ができません。

(民法改正により、1金融機関最大150万円までは他の相続人の合意がなくても仮払いできるということにはなっています)

・分割方法を話し合いで決められない場合、家庭裁判所による調停・審判をすることになり、弁護士費用等の負担も増えることになります。

 

以上のような問題に加えて、精神的にも体力的にも疲れが溜まっていくことでしょう。

では、上記のようなことにならないようには、何をしたらいいのでしょうか?

今回は、遺産に不動産がある場合の遺産分割をスムーズにするための方法を一つご紹介します。

 

 

遺産の分割方法

 

その方法とは、「代償分割」という方法を用いていきます。

遺産分割の方法には、以下の3つがあります。

 

①「現物分割」

1つ1つの財産を、誰が取得するのかを決める方法で、この方法の遺産分割が一番多くなっています。遺産そのものを現物で分ける方法ですが、不動産等が遺産にある場合は均等に分けることが難しくなります。

②換価分割

不動産等の遺産を売却してお金に換えたうえで、その金銭を分ける方法です。つまり冒頭の会話で、次男が提案していた方法ですね。この方法は、遺産を処分することになりますので、処分費用や譲渡取得税などを考慮する必要があります。

③代償分割

特定の相続人が、特定の遺産を相続する代わりに、他の相続人に金銭などを与える方法です。

今回お話しするのは、この③代償分割を選択してスムーズな遺産分割にする方法です。

 

 

「代償分割」事例

 

では、その方法を具体的な例を使って見ていきましょう。

被相続人:父

相続人:長男、長女、次男

相続財産:自宅(土地・建物)5,000万円、自社株5,000万円、現金・預貯金1,000万円、有価証券1,000万円

遺言:事業を承継するため、長男に自宅と自社株を相続させる。残りの財産は長女と次男で2分の1ずつ相続させる。

状況:長男が実家に住み、父の事業を継いでいる。長女は結婚して嫁いでいる。次男は結婚して子供もいる会社員。

 

このケースは、分割することが難しい財産の自宅と自社株で1億円の価値があり、残りの分割しやすい財産が2,000万円となっています。

また、父親の事業を長男が継いでいて、しかも同居しており同居は事業承継に不可欠な状態ですので、自宅と自社株を長男以外が相続することには不都合が生じてきます。

しかも、自宅と自社株合わせて1億円以外の遺産は2,000万円ですので、均等に分けることが非常に困難です。

遺言通りに相続したとしますと以下のようになります。

 

事業等を継承する長男が、自宅と自社株1億円。

長女が、現金・預貯金1,000万円。

次男が、有価証券1,000万円。

 

いかがでしょうか?

大変アンバランスですよね。

それでも、この通りに分割して誰も文句を言わずに納税すれば、遺産分割完了となります。

しかし、長男、長女、次男の分配率は、10:1:1 です。長女か次男が不満を持ってもおかしくはない状態です。

 

もし不満を持った場合に問題となってくるのが、「遺留分」という法律です。(「遺留分」について詳しく知りたい方は、「遺留分について」をご覧ください)

「遺留分」は、法定相続人が主張した場合に絶対にもらえる取り分で、遺言でも侵すことができません。

このケースでの「遺留分」は、法定相続分の「2分の1」ですので、1/3×1/2ですので、遺産総額の「六分の一」となります。

1億円の「六分の一」ですので、約1,670万円が「遺留分」となります。

ということは、長女と次男は1,000万円ずつしか相続していないので、「遺留分」までには670万円足らないとなります。

そこで長女と次男は、長男に対して「670万円ください」ということができるのです。これを「遺留分侵害額請求」と言い、請求された長男は絶対に拒むことができません。今は遺留分の支払いは現金のみとなっていますので、 2人から「遺留分侵害額請求」を受けた場合、長男は現金で1,340万円の支払いをしなければなりません。結構な大金です。

長男は、この相続で現金を一切貰っていないので、自分の預貯金から持ち出して支払うか、何か売却するか、借り入れる等をしなければならないのです。

こうなってしまうと、その後の長男の事業や生活が厳しくなるかもしれませんし、兄弟たちの感情の対立が生まれるかもしれません。

こうならないように、遺言と生命保険を使った対策をとることができます。

 

 

遺言と生命保険を使った代償分割

 

その対策は以下のものになります。

今回のケースの被相続人:父に、生前に生命保険に加入してもらいます。

契約形態は、契約者=父、被保険者=父、保険金受取人=長男、保険金額=1,400万円 です。

そして、父に遺言を作成してもらいます。

内容の中に、「事業を継承してもらうために自宅と自社株を長男に相続させる。残る財産の現金・預貯金と有価証券は長女と次男に二分の一ずつ相続させる。長男が受取人の生命保険金1,400万円がある。長男はこの生命保険金を、長女へ700万円、次男へ700万円ずつ代償分割交付金として支払うこと」といった旨の文言を入れておきます。

遺言には付帯事項として父からそれぞれの子供たちへの想い等を記載しておいてあげると、なお良いでしょう。

こうすることによって、長男は遺留分侵害額請求をされずに済みますし、長女、次男も遺留分侵害額請求をして得る金額と同じものが手に入ります。そして何より、兄弟間の感情の対立が無くなることが一番大きいのではないでしょうか。

 

ここで重要なことは、生命保険金の受取人を不動産等を相続しない相続人にしないことです。上記ケースでいくと、長女と次男にしてはいけないということです。

なぜならば、生命保険金は受取人固有の財産とされていますので、長女と次男が保険金を受け取った場合、保険金は長女と次男が元々持っていたお金ということになり、保険金を受け取った上に「遺留分侵害額請求」もできてしまうのです。注意しましょう。

また生命保険金は遺産分割対象外とみなされますので、長男に、現金でなく生命保険金を代償分割交付金とすると遺留分の金額が下がるメリットがあります。

 

今回ご紹介した方法は、父が被保険者として生命保険に加入する方法です。生命保険健康状態によっては加入できないこともありますので、被保険者になる方が健康なうちに早めに加入されることをお勧めします。なお、今は健康状態が思わしくなくても加入できる生命保険商品も多く開発されてきていますので、専門家に相談してみることもお勧めします。

エヌ・コンコード・コンサルティング株式会社は、皆様のご相談に乗ってまいります。

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