相続税の計算方法
2020.05.28
平成29年分の相続税納税者数は、約11万2千人。課税価格合計は15兆5,884億円で、被相続人一人当たりでは1億3,952億円となっています。
平成28年分は、それぞれ約10万6千人、14兆7,813億円、1億3,952億円でした。(国税庁)
一人当たりの税額はあまり変化していませんが、相続を支払う人数が増加していることが分かります。
相続税計算の基礎控除額が、5,000万円+1,000万円×法定相続人数から3,000万円+600万円×法定相続人数に下がって以来、相続税を支払う人の人数が年々増えているのです。
相続税の支払いをする人は全体の8%台にすぎませんが、支払うとなりますと平均で1億円超です。かなりヘビーですよね。
では、相続税とはどのように計算するのでしょうか?
じっくりと見てみましょう。
相続税計算
1・相続税はいくら以上でかかるの?
上記冒頭文でも記しましたように、相続税には基礎控除が設けられています。
現在の基礎控除額は、
「3,000万円+600万円×法定相続人数」です。
例えば、法定相続人が配偶者と子2人の場合、
3,000万円+600万円×3人=4,800万円となります。
正味の遺産額が、この基礎控除額以下であった場合は相続税はかからないということになります。
この他、生命保険に加入していた場合の「保険金額500万円×法定相続人数」の控除や、
死亡退職金を受取った場合の「死亡退職金500万円×法定相続人数」があります。
2.正味の遺産額の計算
遺産の中で、課税対象になる財産から非課税財産を差し引きます。
〇課税対象となる財産
・土地・借地権・建物・立木・現金・株式・公社債・家庭用財産・書画骨董・電話加入権・みなし相続財産(生命保険金、死亡退職金等)・相続開始3年以内の贈与財産・相続時精算課税制度の適用を受けた相続財産etc(相続時精算課税制度について詳しくお知りになりたい方は「相続時精算課税制度はどんな時に使うの?」をご覧ください。
〇非課税財産
債務・葬儀費用等
「課税対象となる財産の価値」
・土地:通常「路線価」を使用して評価する。「小規模宅地等の特例」を適用できる場合は、適用した後の価額を計算する
・建物:固定資産税評価額
・現金:そのままの価値
・株式・公社債:時価
・生命保険金:生命保険金の非課税枠「500万円×法定相続人数」を差し引いて残った保険金額
・死亡退職金:死亡退職金の非課税枠「500万円×法定相続人数」を差し引いて残った死亡退職金額
・書画骨董:鑑定評価額
といった具合にそれぞれの財産の価値を決めていきます。
そして、それぞれの財産の価値を合計します。
この合計額から非課税財産(債務・葬儀費用等)を差し引いた金額が、正味の遺産額となります。
この正味の遺産額から、基礎控除額を引いた金額が課税遺産総額となります。
この金額がゼロ以下であれば相続税はかかりません。
3.相続税額の計算
正味の遺産額から基礎控除額を引いて、課税遺産総額を出します。
例えば、正味遺産総額が1億5,400万円で法定相続人が配偶者と子2人の合計3人だったとします。
基礎控除額は、3,000万円+600万円×3人=4,800万円 ですので、
1億4,800万円ー4,800万円=1億円 となり、これが課税遺産総額となります。
課税遺産総額が1億円と出てきましたので、いよいよ相続税額の計算です。
最初に、課税遺産総額を法定相続分で分割したものとして相続税の総額を計算していきます。
今回のケースで法定相続分ずつ分割したとしますと、
配偶者:1億円×1/2=5,000万円
子1:1億円×1/2×1/2=2,500万円
子2:1億円×1/2×1/2=2,500万円
となります。
そして、それぞれの課税遺産額に相続税率をかけていきます。
相続税率は累進税率ですので、遺産額が高くなればなるほど税率も高くなるわけですが、総額に対しての税率ではなく、分割後のそれぞれの課税遺産額で税率を当てはめていきます。
相続税率は以下の通りに定められています。
法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10% -
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1700万円
3億円以下 45% 2700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円
今回のケースは、課税遺産総額は1億円ですが、1億円の税率を見るのではありません。
配偶者は5,000万円の税率、子達は2,500万円の税率を見るのです。
ということは、
配偶者:5,000万円×20%ー200万円=800万円
子1 :2,500万円×15%-50万円 =325万円
子2 :2,500万円×15%-50万円 =325万円
となります。
そして、それぞれの法定相続分に対する相続税額を合計します。
800万円+325万円+325万円=1,450万円
ですね。
この1,450万円がこのケースの相続税総額となるのです。
次に、実際にどのように遺産を分割したかを見ます。
遺産に自宅等の不動産が含まれていたり、配偶者の生活費を考えたりすると、法定相続分通りに分割することは至難の業です。
今回のケースで、実際には以下のように分割したとしましょう。
配偶者:8,000万円
子1 :1,000万円
子2 :1,000万円
こう分割しますと分割割合は、
配偶者:80%
子1 :10%
子2 :10%
となります。
そして、先ほど計算しました相続税総額1,450万円にこの割合を掛けていきます。
配偶者:1,450万円×80%=1,160万円
子1 :1,450万円×10%=145万円
子2 :1,450万円×10%=145万円
この金額がそうれぞれの納付税額となるのです。
しかし、まだ完成ではありません。
配偶者には、「配偶者の税額軽減」という特典が付いています。
「配偶者の税額軽減」とは、配偶者の相続分が、1億6,00万円もしくは配偶者の法定相続分までは相続税がかからないという制度です。
今回のケースでは、配偶者は遺産の80%を相続していますので、法定相続分以上を相続していますが、金額は8,000万円で1億6,000万円以下ですので、配偶者は相続税がかからないのです。
ということで、今回のケースの相続税納付額は以下の通りとなります。
配偶者:0円
子1 :145万円
子2 :145万円
これで今回のケースの相続税額計算は完了です。
こう見てきますと、「配偶者の税額軽減」を使って、かなりの相続税額を減らせることがお分かりになると思います。
しかし、この制度を使うためには注意すべき点があります。
この「配偶者の税額軽減」制度は、相続税の申告期限までに分割されていない財産は税額軽減の対象になりません。
ただし、相続税の申告書又は更正の請求書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付した上で、申告期限後3年以内に分割した時は、税額軽減の対象となる等の措置はあります。
相続税の申告期限は相続開始から10か月です。10か月の時間で分割の話し合いがまとまらなかったものが、3年かければまとまるのかどうか分かりません。
スムーズに遺産分割できるように対策をしておくことが得策です。
また「配偶者の税額軽減」は使った方がいいですが、2次相続にも留意して分割方法を考える必要もあります。
1次相続は両親のどちらかが亡くなった状態、2次相続は残った親が亡くなる状態です。
そして、2次相続の時は配偶者がいない状態ですので、「配偶者の税額軽減」制度を使うことは出来ず、子へダイレクトに相続税課税されるのです。
1次相続で「配偶者の税額軽減」をフルに使って課税を逃れたとしても、2次相続に跳ね返ってしまいますので、1次相続の時に、ある程度子へ遺産を移すことも必要です。
2次相続まで見据えて、どのように遺産分割の配分をするのか慎重に考える必要があります。
エヌ・コンコード・コンサルティング株式会社は、その考えのお手伝いをします。