医療法人事業承継対策の必要性と方法①
2018.10.09
医療法人の事業承継円滑化を目的として、2018年10月1日より新認定医療法人制度が施行されています。(Nマガジン「認定医療法人について」参照)
これは出資持分あり医療法人と呼ばれる医療法人を主に対象としていますが、なぜこの制度が必要なのでしょうか。
医療法人の資本として出資金を供出して医療法人を設立します。この出資金を、誰がどんな割合で出したかが出資持分となります。普通法人で考えると出資金は資本金で、出資持分は持株割合といったところでしょうか。ちなみに2007年医療法改正以降に設立された医療法人は出資持分あり医療法人が皆無です。(Nマガジン「医療法人の流れ」参照)
出資持分あり医療法人の出資金は株式のようなものですので、出資持分を持っている医療法人の経営が順調に推移して利益を蓄積してきていますと出資持分の価値も膨れ上がっていきます。出資した金額が1000万円であったとしても、利益の蓄積次第によっては出資持分の価値が数億円になっていることも多々見受けられます。医療機関によっては数十億円の価値になっていることもあります。一度ご自身が運営している医療法人の出資持分価値を精査してみることをお勧めします。
長年医療法人を運営した結果、出資持分の価値が上がることは良さそうに思えます。普通に考えれば、順調に医療法人を経営してきて法人の価値を高め、ご自身の財産価値を上げることができたというサクセスストーリーなはずです。
では、出資持分の価値が膨れ上がると何がいけないのでしょうか?
問題は、①出資持分保有者の相続と②事業継続性の不安定化の2点でしょうか。
①の問題は相続税課税の問題です。上記のように1000万円の出資金が数億円の価値に高まっていた場合、その価値に対して相続税課税が生じます。相続税は現金での支払いが大原則ですが、出資金は流通性に乏しく現金化の難しい財産です。どこかから数億円の現金を納税用に用意しなければならないことになります。
②の問題は出資持分保有者に「払戻し請求権」があるということです。出資者が医療法人を去るとき等に価値の上がった出資持分を現金で請求できるのです。この請求権を行使されると医療法人は絶対に支払わなければなりません。また問題①のことになりますが、出資者が退職前に亡くなってしまった場合には出資持分が遺族に相続され、遺族に多額の相続税課税が生じます。遺族は多額の相続税支払いが困難になる可能性が高いでしょう。そうなりますと遺族は医療法人に対して「払い戻し請求権」を行使して現金を得て納税することになるかもしれません。医療法人は現金数億円を吐き出す形になりますので、その後の医療法人運営が厳しくなる可能性も高まります。
実は問題①と②はかなり密接にリンクしていています。出資持分保有者は現金を得る権利を持っています。医療法人は「払い戻し請求権」に応える義務を持っています。この義務により医療法人運営の継続を困難にしてしまう可能性を大いに秘めています。
次回はこの問題の解消方法について探っていきます。→(医療法人事業承継対策の必要性と方法②)