遺産が自宅しかない。どうやって分けるの?
2020.08.06
こんなような会話を何度かした記憶があります。
「相続対策をされていますか?」
「いや、うちは財産なんて無いからそんなこと考える必要はないよ。」
「お住まいは分譲住宅ですか?」
「そうだね。親から相続した家に住んでいるよ。古い家だからそんなに価値もないよ。財産なんてこの古い家だけだね。」
さて、上記のような方は本当に相続対策をする必要がないのでしょうか?
今回は「相続財産がほぼ自宅だけ」という人の相続について考えていきます。
相続財産が自宅だけでも、相続人が誰なのかを確認しましょう
相続財産が自宅などの不動産しかない場合は、法定相続人が何人いるのかを確認する必要があります。(法定相続人について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください→「相続する順番~法定相続人の順位~」)
なぜならば、不動産しかない遺産の分け方を考えなければならないからです。そして法定相続人が一人だけの場合は分け方の問題は生じません。分ける必要がありませんからね。
しかし法定相続人が複数いる場合、事を真剣に考えなければなりません。自宅を細切れにして分けることはできませんが、名義を複数人にすることはできます。これは共有名義にするということですが、あまりお勧めできる方法ではありません。その理由には、不動産を売却しにくくなるということが挙げられます。共有名義の不動産を売却する際には、共有名義人全員の承諾が必要となってくるのです。共有名義人の誰か一人でも売却に反対であると売却することはできません。そもそも不動産の名義人は沢山いるけど、その不動産を誰が使うのか、固定資産税を誰が支払うのかなどの問題も常に付きまとうことになります。
共有名義にするもう一つの問題点は、共有の権利も相続されるということです。共有者の誰かが亡くなった場合に、その共有者の相続人が権利を相続することになります。この際の相続も考えるのが面倒臭いから等の理由で、共有で相続したとします。そしてこのようなことが繰り返されていくと、「元の共有者は3人だったが気づいたら20人になってた」なんてことも容易に起こりうるのです。
では、共有する権利が相続され続けて共有者の人数が膨れ上がっていった場合の問題点は何でしょうか?
一つ目の問題は、売却等をする際に人数が増えれば増えるほど全員の承諾を得ることが難しくなっていくことです。
二つ目の問題は、共有者同士の関係が、どんどんと薄れていくことです。相続が起きれば起きるほど関係性が遠いところに移っていきます。どこに住んでいるのかも分からない人が共有者となっていくことになるのです。しまいには誰が共有者か分からないという状態になってしまいます。(登記で確認することはできます)
ですので、ほぼ自宅しか遺産が無く法定相続人が複数いる場合は、誰に自宅を相続させるのか、その他の相続人には何を相続させるのか等を考える必要があります。
相続税がかかるのかを確認しましょう
法定相続人が誰なのかを確認しましたら、相続税がかかるのかを確認しましょう。
相続税がかかるのかを確認するためには、財産の価値を確定しなければなりません。自宅の財産の価値を決めるために、土地と建物を分けて考える必要があります。
土地の価値は、原則的に国税庁が出している路線価を基準に計算します。建物の価値は、毎年送られてくる固定資産税納税通知書に記載されている固定資産税評価額の金額になります。(路線価について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください→「遺産の不動産価値はどうやって決めるの?」)
遺産の価値を計算することができましたら、次に控除額を差し引きます。最初に基礎控除を差し引きます。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人数」の公式で計算します。法定相続人が4人いるケースですと、3,000万円+600万円×4人=5,400万円までの遺産は相続税がかからず相続税申告も不要です。
次に配偶者控除や、生命保険金の非課税枠や、死亡退職金の非課税枠等を控除していきますが、これらの控除を使うためには申告する必要があります。そして自宅を相続する際大きな影響があるものがあります。それは「小規模宅地等の特例」です。詳細については「小規模宅地等の特例~相続対策で使えるなら使わない手はありません~」をご覧になっていただければと思いますが、この制度を使えるならば、1億円の価値がある土地も2,000万円の価値で相続税を計算することができますので、この制度を使えるならば使わない手はありません。絶対に抑えておきたいポイントとなります。
計算した結果、相続税がかかりそうな人は納税できるのかどうかを考えなければなりません。今回考察しているケースは、遺産の内訳がほぼ自宅だけという人の相続です。そうなりますと、相続財産の中に現金・預貯金がほぼ無い状態ということになります。しかしながら、相続税の納税は原則現金での支払いとなります。自宅を相続した人に貯蓄がない場合は、相続財産にも現金がないため納税することができなくなってしまうのです。
こうなりますと、自宅を売却する等のことをして納税をする必要性に迫られます。自宅を所持する必要がなければ売却でもいいかもしれませんが、相続税は相続が生じてから10カ月以内に支払わないといけません。期限付きで売却することになりますので安く買いたたかれる可能性も高くなります。相続が起きる前に上記のような状況を把握して、相続が飽きる前に時間に余裕を持って対策を行った方がよりベターな結果を得られるでしょう。
以上見てきましたように、相続財産が自宅しかなくても、相続人が2人以上いたり、相続税がかかる場合には、相続対策は必要!となります。
では、どんな対策ができるのかを見てみましょう。
相続財産がほぼ自宅だけの人の相続対策
ここでは遺産の分け方の対策と、納税資金対策に分けてみていきましょう。
〇遺産の分け方の対策(遺産分割対策)
遺産にほぼ自宅しかないという状況です。このまま遺産を分けるのは至難の業といえるでしょう。では、どうしたらいいでしょうか。
・自宅を売却して現金化してから等分する
これは換価分割という方法で、こうすれば遺産に不動産しかない場合も均等に分けることができます。しかし自宅は処分されますので、相続人の誰かが住んでいる人がいる場合には引っ越す等の処置が必要となります。
注意すべき点は、遺産分割協議書に換価分割の方法を使う旨を記載しておかないと、売却代金を分ける際に贈与税や譲渡益課税される可能性が出てくる点です。この方法を使うときは、換価分割の旨を必ず遺産分割協議書に記載しましょう。
・自宅を相続した人が、他の相続人に代償金を支払う
代償金とは、相続人の誰か一人が財産を取得して、財産を取得した相続人が他の相続人に清算金として支払うお金です。代償金の金額は法定相続分に応じて計算することになります。今回見ています相続財産がほぼ自宅だけでに当てはめますと、相続人の誰か一人が自宅を相続してその相続人が他の相続人に代償金を支払うという流れになります。
図
↓ ← ←相続人A(自宅を相続)→ → ↓
↓(代償金) ↓(代償金) ↓(代償金)
↓ ↓ ↓
相続人B 相続人C 相続人D
ここで注意しなければならないのは、不動産の評価です。不動産の評価方法は一つではなく何通りもあるために、何通りもの評価額を算出することが可能です。代償金を支払う人は評価額が低いことを望みますし、代償金をもらう人は評価額が高い方を望みます。相続人同士でしっかりと折り合いをつけていかないとトラブルの原因にもなります。
生命保険を利用して代償分割交付金を作る方法もありますので、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。→ 「不動産の換価分割と代償分割」
・相続放棄をする
相続財産が田舎にある親の住んでいた自宅だけで、親がいなくなった後には誰も住む人がいないといった場合は、相続人全員が相続放棄をしてしまうという方法もあります。もしくは一人が自宅だけ相続して他の相続人には相続放棄してもらう方法もあります。ただし全員が放棄をした場合は次の所有者が決まるまでは不動産を管理する義務は残りますので留意しましょう。
〇納税資金の対策
・生命保険に加入する
相続税を納税できる保険金額の生命保険に加入します。生命保険は相続が発生を原因として現金が発生する装置ですので、相続税納税資金作りには最適なツールです。生命保険の加入には、健康状態のチェックが必要であったり保険料の支払いが必要であることに留意する必要があるでしょう。
・自宅の売却を考える
自宅に継続して住む人がいないなら売却の準備をする必要があるでしょう。相続後に慌てて売却しようとしますと安く買いたたかれる可能性もあります。被相続人が相続直前に高齢者施設に移住して自宅を売却しておいたり、事前から売却先の目途をつけておいたりした方がいいでしょう。
またリバースモゲージのような商品もありますが、人間の寿命を予測することができないために慎重に選択する必要があるでしょう。リバースモゲージについて詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。→ 「リバースモゲージと家族信託」
まとめ
相続財産は自宅しかないよという場合に、相続人が何人いるのか、相続税がかかるのか、かかる場合に納税できるのかを確認していく必要があります。またその不動産を継続して所有し続ける必要があるのかを見極め、売却する際に価値があるのかどうかも調査する必要があるでしょう。
そして、もっとも重要なことは相続人間の利害で対立しない状況を作っていくことです。相続人間のバランスを上手くコントロールしながら対策を考えないと最終的にまとまるものももとまらなくなってしまいます。揉めない相続対策を目指していきましょう。
エヌ・コンコード・コンサルティング株式会社は揉めない相続対策に実績があります。 「お問い合わせはこちら」